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企業における女性の健康支援 ~人事・経営が今取り組むべき理由と実践策~

作成者: Growbase編集部|8/4/26, 9:10 AM

 

なぜ今、企業が女性の健康課題に向き合うべきなのか

労働人口が減少し続ける日本において、女性が心身ともに健康な状態で長く働き続けられる環境をつくることは、もはや福利厚生の一項目ではなく経営課題そのものになっています。経済産業省は、月経、不妊治療、更年期症状、婦人科系疾患といった女性特有の健康課題によって生じる労働損失を、年間およそ3.4兆円規模と試算しています。これは欠勤や休職だけでなく、「体調が悪いまま出社し、本来のパフォーマンスを発揮できない」状態(プレゼンティーイズム)による損失を多く含んでおり、経営指標として無視できない規模です。

加えて、女性活躍推進法や健康経営優良法人認定制度など、国レベルの枠組みも女性の健康支援を評価対象に組み込み始めています。人材獲得競争が激化するなかで、「女性が働き続けやすい会社かどうか」は採用ブランディングや投資家からの評価にも直結する要素になりつつあります。

女性従業員が抱える健康課題の全体像

女性の健康課題はライフステージによって内容が大きく変化します。

月経・PMS(月経前症候群):多くの女性が毎月経験するにもかかわらず、痛みや体調不良の程度に個人差が大きく、周囲の理解を得にくい領域です。

妊娠・出産、不妊治療:治療と仕事の両立は通院回数の多さや心理的負担から離職の引き金になりやすく、企業側の柔軟な制度対応が求められます。

更年期症状:40代後半から50代にかけて、ホルモンバランスの変化により集中力低下や倦怠感などが生じますが、管理職世代と重なるため組織への影響が大きいテーマです。

婦人科系疾患:子宮内膜症や乳がんなど、早期発見・治療のための検診機会の確保も健康経営の一部です。

これらは「個人の問題」として語られがちでしたが、当事者だけでなく上司・同僚を含めた組織全体の理解とリテラシー向上が土台になります。

企業が取り組むべき具体的な施策

1. 制度整備 ― 使いやすい休暇・勤務制度

生理休暇はすでに労働基準法で定められた権利ですが、心理的なハードルから実際の取得率は低いままです。名称の見直しや、不妊治療休暇、時差出勤・テレワークの拡充など、症状の重さに応じて柔軟に働き方を選べる制度設計が重要です。

2. フェムテックの活用

フェムテック(Femtech)とは、Female(女性)とTechnology(技術)を組み合わせた言葉で、月経、不妊、妊娠・出産、更年期など、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスなどを指します。月経周期管理アプリ、オンラインの婦人科相談サービス、更年期ケアデバイスなど、テクノロジーを使ったセルフケア支援を福利厚生に組み込む企業が増えています。経済産業省は2021年度から実証事業を重ね、企業・自治体向けの導入ガイダンスを公表するなど、制度設計の後押しをしています。導入時は健康データの取り扱いに関するプライバシー保護を明確にすることが欠かせません。

3. 相談窓口と産業保健スタッフの活用

産業医・保健師による相談窓口を設け、症状を我慢せず早期に相談できる体制を整えることは、離職防止に直結します。

4. 管理職・経営層のリテラシー向上

女性の健康課題は、当事者以外には見えにくいという特性があります。管理職向け研修や、経営層自らが症状の疑似体験に参加するといった取り組みは、「自分ごと」として理解を広げる効果があります。実際に、経営陣が月経痛の疑似体験会に参加し、社内理解の促進につなげた企業事例も報告されています。

5. 情報発信とオープンな社内対話

「女性の健康支援について」といった啓発活動や、社内アンケートによる実態把握は、制度を作るだけでなく実際に使われる文化を醸成するために欠かせないステップです。

導入を進めるためのステップ

1. 現状把握:従業員アンケートで、どのような健康課題が業務にどの程度影響しているかを可視化する。

2. 経営層のコミットメント表明:トップからのメッセージ発信により、制度利用への心理的ハードルを下げる。

3. 推進役の設置:人事・ダイバーシティ推進部門に加え、当事者の声を拾い上げる社内有志チームや労働組合を巻き込む。

4. 段階的な施策導入:一度にすべてを整備しようとせず、優先度の高い課題から着手する。

5. 効果測定と改善:制度利用率やエンゲージメント調査などで効果を検証し、継続的に見直す。

以上の5つのステップは、現状把握から効果測定まで一連のPDCAサイクルとして機能します。重要なのは完璧な制度設計を目指すことではなく、経営層のコミットメントのもとで小さく始め、当事者の声を反映しながら継続的に改善していく姿勢です。人事部門だけで抱え込まず、現場や労働組合を巻き込んだ全社的な取り組みとすることで、実効性のある女性の健康支援が実現し、組織全体の活力向上へとつながっていきます。

取り組む上での留意点

女性特有の健康課題はデリケートな個人情報であるため、制度を作っても「利用していることが周囲に知られたくない」という心理的抵抗が根強く残ります。名称や申請フローの工夫、プライバシーへの配慮なしに制度だけを整えても、実際の利用にはつながりません。また、経営層に女性が少ない、あるいは経営層自身が症状を実感した経験に乏しい場合、課題が「自分ごと化」されにくく、優先順位が下がりがちです。特に中小企業では、健康経営への投資が売上に直結しないという認識から、取り組みが後回しにされやすい傾向も指摘されています。

まとめ

女性の健康支援は、一部の女性従業員のための特別な配慮ではなく、労働力人口が減少する日本社会において企業の持続的な成長を支える経営戦略の一部です。制度整備、テクノロジーの活用、そして何より組織全体のリテラシー向上という3つの軸を組み合わせることで、女性が能力を最大限に発揮できる職場づくりが実現します。まずは自社の実態を可視化するところから、着実な一歩を踏み出すことが求められています。

参考)

経済産業省「フェムテック|新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/femtech/index.html

経済産業省「企業・自治体等向け 女性の健康課題の解決に向けたフェムテック導入ガイダンス」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/femtech/assets/pdf/femtech_guidance2026.pdf

経済産業省「健康経営における女性の健康課題に対する取組事例集(令和7年3月)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/health_management/pdf/002_03_00.pdf

<監修者プロフィール>
 染村 宏法

 
 
産業医科大学医学部卒業。国立病院機構九州医療センター研修後、オリンパス株式会社・富士電機株式会社の専属産業医。その後、昭和大学精神医学講座へ入局、烏山病院での勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動に従事。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、簡易型認知行動療法、睡眠衛生等に関する介入研究や教育に携わった。

<資格>
医師
医学博士
日本産業衛生学会専門医・指導医
社会医学系指導医
日本精神神経学会専門医・指導医
精神保健指定医
労働衛生コンサルタント