新年度から企業の総務・人事労務担当になった担当者は、健康診断の手配と実施が新たな業務に組み込まれます。健康診断には複数の種類があり、それぞれ検査項目が異なります。しかし、健康診断が初めての担当者は、自社で実施する健康診断の種類や項目についてわからないことが多いはずです。
検査項目や省略しても良い項目を頭に入れておかないと、従業員から質問が来ても答えられない状態になってしまいます。そのような状態を避けるため、実施する健康診断の種類や検査項目について知っておきましょう。
この記事では健康診断の種類とその項目を細かく説明しています。これを読めば、自社で実施すべき健康診断の種類やその項目がわかります。まずは実施前に正しい知識を身に付けておきましょう。
健康診断には、大きく分けて2種類あり「一般健康診断」と「特殊健康診断」です。業務内容によって受ける健康診断の内容が違いますので、以下で把握しておきましょう。
一般健康診断とはすべての企業が対象で、職種に関係なく実施する健康診断です。最もよく知られている「定期健康診断」を含む以下の5種類が、一般健康診断に分類されます。
「特定業務従事者の健康診断」と次章の「特殊健康診断」は種類が違います。よく混同されがちですので気を付けましょう。
特定の業務に従事する人だけが義務付けられている健康診断のことです。以下7つが特殊健康診断が義務付けられている業務です。
これらは一般的な健康診断と違い、業務に合わせた特殊な検査項目で検査します。
ここでは、各健康診断の詳しい検査項目を見ていきます。検査項目を事前に知っておくことで、正しく過不足なく健康診断を行い、管理できるようになります。
雇入れ時の健康診断は、従業員を雇入れる際に必ず行う健康診断です。雇入れの直前、または直後に実施します。「常時使用する労働者」が対象で、常時使用する労働者とは、「1年以上使用する予定で、週の労働時間が正社員の4分の3以上」の従業員のことです。正社員はもちろん、契約社員や条件を満たしたアルバイトやパートも対象です。
検査項目
※すべての項目を検査する必要があり、健康診断項目の省略はできません。
雇入れした人が入社3か月以内に医師の検診を受け、上記項目をカバーした結果を提出した場合は、雇入れ時の健康診断を省略できます。
雇入れ時の健康診断と同じく、「常時使用する労働者」を対象に、1年に1回行う健康診断です。検査項目は雇入れ時の健康診断とほとんど同じですが、以下の項目だけ異なります。
4. 胸部X線検査、および喀痰検査
4の胸部X線検査に「および喀痰検査」がプラスされています。また、定期健康診断は年齢や条件によって省略できる項目が多いです。質問された時に答えられるよう、省略可能な項目も頭に入れておいた方が良いでしょう。
特定業務従事者とは、深夜業または労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務などの特定業務に従事する従業員を指します。特定業務に該当する以下の業務に従事する従業員は、当該業務への配置替えの際、および6ヶ月ごとに1回、定期的に定期健康診断と同じ項目の健康診断を実施します。
検査項目は定期健康診断と同じですが、6か月に1回という短いスパンで実施するのが特定業務従事者の健康診断の特徴です。
海外に6ヶ月以上派遣される従業員は、その派遣前および帰国後に健康診断が義務づけられています。
検査項目は定期健康診断と同じ11項目に加え、医師が必要であると認めた場合に実施する以下の項目がプラスされています。
定期健康診断にプラスされる検査項目
12. 腹部画像検査(胃部エックス線検査、腹部超音波検査)
13. 血中の尿酸の量の検査
14. B型肝炎ウイルス抗体検査
15. ABO式およびRh式の血液型検査(派遣前に限る)
16. 糞便塗抹検査(帰国時に限る)
医師が必要ないと認めた場合に省略できる項目もあります。前述した定期健康診断と同じ省略可能な項目は、海外派遣労働者の健康診断でも省略可能です。
事業場附属の食堂または炊事場における給食の業務に従事する従業員は、雇入れ又は当該業務へ配置替えの際、検便が必要です。年1回の定期健康診断に加えて、月2回以上の検便を定期的に行います。また民間企業間の取決めにおいては、毎月1回以上の実施の場合や年1回の場合など、食品業界の中でも統一した取り決めがないのが現状です。
出典:分かりやすい検便の手引き(食品関連業者向け)Vol.4|株式会社食環境衛生研究所
食中毒菌を保菌していても発症していない、いわゆるキャリア(不顕性感染)を見つけ出し、食中毒の広がりを防ぐために定期的に実施されています。キャリアは症状がなく長期にわたり食中毒菌を広げてしまうリスクがあり、そのリスクをふせぐために検便検査は欠かせないのです。
有害物質を取り扱う従業員、有害な環境で作業を行う従業員等に対する健康診断です。自社で該当する従業員がいる場合は、検査項目をひととおりチェックしておくのがおすすめです。また、特殊健康診断は前述した「特定業務従事者の健康診断」とは異なります。内容も違いますので混同しないように気を付けましょう。
対象者・実施時期
じん肺を起こすおそれのある作業に従事する従業員を対象に、就業時・もしくは定期に3年以内ごとに実施します(常時粉じん作業に従事する従業員で、じん肺管理区分2と3は1年以内ごとに実施。離職時過去に従事したことのある方で、管理区分2は3年以内ごと、管理区分3は1年以内ごとに実施)。
検査項目
対象者・実施時期
屋内作業場において有機溶剤を製造または取り扱う業務に従事する従業員に対し、雇入れ時・配置換え時および6ヶ月以内ごとに実施します。
検査項目
対象者・実施時期
鉛等を取り扱う業務またはその蒸気および粉じんを発散する場所における業務に従事する従業員を対象に、雇入れ時・配置換え時および6ヶ月以内ごとに実施します。ただし、ハンダ付け等の業務は1年以内ごとに実施します。
検査項目
対象者・実施時期
四アルキル鉛を扱う従業員に対し、6か月以内ごとに実施します。
検査項目
対象者・実施時期
法令で指定された化学物質を製造または取り扱う業務に従事する従業員に対し、雇入れ時・配置換え時および6か月以内ごとに実施します。
検査項目
対象者・実施時期
高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する従業員に対し、雇入れ時・配置替え時および6月以内ごとに実施します。
検査項目
対象者・実施時期
放射線業務に常時従事する従業員で管理区域に立ち入るものに対し、雇入れ時・配置換え時および6か月以内ごとに実施します。
検査項目
前述したような法律で定められた業務以外でも、健康に影響を及ぼすおそれのある有害業務については、行政指導で特殊健康診断を実施することが義務づけられています。そのほとんどの業務で雇入れ時・配置換え時および6ヶ月以内ごとに健康診断をしなければなりません。業務内容としては紫外線・赤外線にさらされる業務や、騒音を発する場所における業務など、30ほどの業務が該当します。
検査項目は各業務によってかなり違っており、例えば紫外線・赤外線業務なら「業務の経歴の調査・自覚他覚症状の検査・眼の障害の検査」、強烈な騒音を発する場所における業務なら「業務の経歴の調査・自覚他覚症状の検査・聴力検査」となり、その業務に特化した項目のみの検査であることが分かります。
詳しい検査内容を知りたい場合は、各健康診断を実施している業者に問い合わせると良いでしょう。
今回確認したように、一口に「健康診断」と言っても一般的な健康診断の他にもかなり幅広い健康診断があることが分かります。特殊業務に対して行われる検査は、該当する企業に勤めている方以外は知らない方が多いでしょう。健康診断の実施が業務になった場合は、自社に合わせた健康診断の種類と項目をひととおり知っておくと非常に便利です。
特殊業務を扱う企業の場合は、一般健康診断と違う検査項目の診断がありますので、それに対する勉強も必要です。健康診断実施は総務・人事の大切な業務ですから、必要な業務知識として身に付けておきましょう。