健康診断は企業が定期的に実施しなくてはならない義務の一つです。しかし、健康診断において守るべき義務がわからず、何をするべきか把握できていないこともあるかもしれません。
健康診断に関する義務に違反すると、企業に対して罰則が設けられているため、健康診断を正しく実施する必要があります。今回は、健康診断に関する義務と義務違反をしたときの罰則規定についてまとめました。健康診断を実施するときの参考にしてください。
企業は、健康診断を必ず実施しなくてはなりません(労働安全衛生法第66条)。健康診断実施にあたって、企業が遵守しておくべき義務を紹介していきます。
健康診断は、企業で働く正社員は全員受診する必要があります。職業に関係なく、正社員に対しては必ず健康診断を実施してください。
また、パートタイマーやアルバイトの従業員については、一定の条件を満たす場合に健康診断の実施が義務になります。厚生労働省が定めている基準は「1週間の所定労働時間数が正社員の4分の3を超える従業員」です。
例えば、正社員が週40時間働いているとき、パート・アルバイトの従業員が1週間で30時間を超えて働く場合、健康診断を実施する必要があります。正社員ではないとして健康診断を怠ると法律違反になるため、注意してください。
また、所定労働時間数が正社員の2分の1を超える場合は、義務ではありませんが健康診断の実施が望ましいとされています。 派遣社員を雇い入れている場合には、派遣元の人材派遣企業が健康診断を実施するため、企業が健康診断を行う必要はありません。
企業は新しく従業員を雇い入れる場合、雇入れ時健康診断を実施する必要があります。雇入れ時健康診断は、従業員を雇い入れる直前か直後のタイミングで実施する健康診断です。
対象者が入社前3カ月以内に医師による健康診断を受診しており、必須項目の検査を受けていて、その結果を企業に提出する場合には、雇入れ時健康診断を省略することが可能です。新卒社員などがこの基準にあたります。
また、雇入れ時健康診断の実施対象者は正社員だけに限らず、週の労働時間数が正社員の4分の3以上となる従業員も当てはまります。労働時間数が長いパート・アルバイトの従業員も対象になるため、注意してください。
定期健康診断は、1年以内に1回のペースで実施する必要があります。健康診断の対象者は、雇入れ時健康診断の対象者と同じです。正社員だけでなく、基準を満たすパート・アルバイトの従業員に対しても実施してください。
実施時期については特に制限はなく、企業側が自由に決めることができます。大企業で全員の一斉実施が難しいという場合など、部署単位や支社単位で定期健康診断を実施しても問題ありません。
特殊健康診断は特定の業務に従事する人だけが受ける健康診断です。高圧下や放射線領域、有機化合物や石綿など危険な物質を扱っている従業員が対象になります。特殊健康診断は雇入れ時、該当業務の配置替え時に加え、6ヶ月ごとに1回、定期に実施する必要がありますので、一般健康診断よりも短いスパンなことに注意しましょう。
常時雇用している従業員の人数が50人以上の企業の場合、従業員の健康診断結果を所轄の労働基準監督署に報告しなければなりません。この報告義務は、労働安全衛生法で定められています。 報告義務を怠った時には法律違反となり、罰則対象になる場合があります。
一方で、常時雇用している従業員数が50人未満の事業所では健康診断の報告義務はありません。
続いて、企業が実施する義務のある健康診断の種類と検査内容をまとめました。 ここで紹介するのは、一般健康診断と特殊健康診断の内容です。
定期健康診断は1年以内に1回実施する健康診断で、検査項目は以下の11項目です。
定期健康診断は全てを実施する必要はなく、担当医師の判断の元で以下の検査項目を省略することができます。
3.身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
4.胸部エックス線検査、および喀痰検査
6.貧血検査(血色素量および赤血球数)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ-GT(γ-GTP))
8.血中脂質検査(LDLコレステロ-ル、HDLコレステロ- ル、血清トリグリセライド)
9.血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c、やむを得ない場合は随時血糖(食後3.5時間以上経過))
11.心電図検査
定期健康診断において結果に問題があった場合には、経過観察、再検査や精密検査、要医療へと移ります。とはいえ、企業にとって従業員は大切な人材ですので、できるだけ再検査を勧めると良いでしょう。
特殊健康診断は、特殊な条件で働いている人が対象になる健康診断です。以下の8基準のいずれかに当てはまるかどうかで判断されます。
検査項目は企業の事業内容によって異なりますので、各企業で必要な検査内容を判断してください。
ここでは、有機溶剤を扱う企業の場合を例として挙げます。主な検査項目は8項目あります。
有機溶剤の中には尿中に排泄される物質もあり、基準値と比べて異常がないかを検査します。取り扱う有機溶剤に応じて眼底検査や血液検査等も行います。
最後に、健康診断に関する義務に違反した場合について紹介します。
健康診断の実施は法律によって定められているため、適切に遵守する必要があります。違反した場合には法律に応じた罰則規定が設けられているので注意してください。
1つ目に、健康診断の実施義務に違反した時です。健康診断は労働安全衛生法第66条により定められており、全ての企業が従業員に対して実施しなくてはなりません。
その義務に違反した際は、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金が課せられます。忙しさなどを理由に、従業員が健康診断を拒否することもあります。未受診のまま企業が受診を促さず健康被害がでた場合、企業は安全配慮義務違反という責任を負ってしまうかもしれません。未受診の従業員がいる場合には、必ず受診するよう促しましょう。
しかし、新型コロナウイルスの影響によって健康診断実施機関等の予約が取れない場合も考えられます。そういった特殊な事情がある場合には、医療機関と話し合いをしたうえで、できるだけ早く健康診断が実施できるよう計画を立てることが必要です。
今回は、企業が健康診断を実施する時に遵守するべき義務についてまとめました。企業は業態に合わせて一般健康診断や特殊健康診断を実施、従業員に受診を促す義務があります。
また、義務を正しく遂行しなかった場合には罰則規定が設けられています。健康診断に関する義務と法律を理解し、正しく健康診断を実施していきましょう。