従業員に対して、法令で定められた健康診断を受けさせることは会社の義務です。人事・総務部にとっての健康診断に関する業務は健康診断の案内や健康診断データの管理がメインとなりますが、健康診断の精算も忘れてはなりません。
この記事では、健康診断が会社負担となるのかどうか、定期健康診断以外の検査は会社負担になるのかなど、会社における健康診断費用の扱いについてご紹介します。新しく人事・総務部に配属された担当者の方も、ご参考にしてください。
労働安全衛生法に基づき、常時使用する従業員に対して健康診断を実施することは、会社の義務として定められています。この義務を果たさなければ罰金50万円以下が課せられるため、対象となる従業員全員に必ず法令で定められた健康診断を受けてもらう必要があります。
アルバイトやパートといった非正規労働者も、以下の要件を満たしていれば、健康診断を受診させなくてはなりません。逆に言えば、要件を満たしている非正規労働者に健康診断を受診させなかった場合、法律違反となるため注意しましょう。
非正規労働者における健康診断実施義務の要件「無期契約または契約期間が1年以上の有期契約により労働する者」に該当していて、正社員の週所定労働時間の1/2以上3/4未満労働する方の場合、健康診断を受診させる義務はありませんが、厚生労働省の「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」によれば、実施が望ましいとされています。
会社役員の場合、健康診断実施義務の対象となる役員とそうでない役員がいます。見極めるポイントは、「労働者性があるかどうか」です。役員であっても部長や工場長、支店長などを兼務している場合は、労働者性があるとみなされ、健康診断の実施対象になります。一方で、代表取締役社長などのような事業主に健康診断実施義務はありません。
ただし、法的に対象外の役員への健康診断の実施義務がなくても、労働管理義務がないわけではありません。経営に悪影響が及ばないよう、役員にも健康診断を受診してもらうようにするのがよいでしょう。
会社に義務付けられている健康診断の費用は、全額会社の負担とすることが労働安全衛生法によって定められています。また、健康診断は保険が適用されず、自由診療のため医療機関によって費用が異なりますが、従業員1人につき5,000~15,000円が相場です。
会社での定期健康診断用に、見積もりを受け付けている医療機関もあります。健康診断を受診してもらう医療機関を選ぶときは、費用だけでなく、予約の取りやすさや健康診断の形式なども踏まえて検討しましょう。
労働安全衛生法で定められた健康診断の費用は、全額会社負担となります。ですが、それらの健康診断以外にも、従業員によっては必要となる検査や従業員が受診を希望する検査などが発生することもあります。以下の定期健康診断以外の検査を受けたとき、その費用は会社負担となるのかどうか解説します。
法定項目以外の項目は会社負担の義務はありません。しかし、産業医がオプション検査を求める場合など、会社が受診を指定する場合は、会社負担とすべきでしょう。また、従業員の健康管理を目的として受診を推奨する場合も、受診率を高めるために会社負担とすることが望ましいです。
オプション検査の費用を負担する必要のないことが判明したからといって、担当者だけの判断で検査費用の負担先を決めることはしないように注意してください。安全衛生委員会において協議の上、議事録などに残してから就業規則等へ反映するのが望ましいでしましょう。できれば、費用負担先の決定には労使の合意を得るのが理想です。
人間ドックは、定期健康診断よりも検査項目が多くなっています。法定項目以外の受診は必須ではないため、人間ドックの費用の全額を会社が負担する必要はありません。
ただし、人間ドックの費用は高額です。会社によっては、福利厚生の一環として検査費用の全額または一部を会社が負担しているケースや、自治体・健康保険組合からの補助金を利用して一部会社が負担するケースがあります。会社の就業規則や前年の担当者に確認し、人間ドックの費用の負担をどのようにしていたかを把握しておきましょう。
健康診断の実施や受診には会社・従業員ともに義務がありますが、再検査は双方において実施の義務がありません。しかし、労働契約法によって会社には従業員への安全配慮義務があるため、再検査を受診できるよう配慮することが望ましいです。再検査の費用を会社が全額負担したり、再検査を勤務時間内に受けられるようにしたりするなどの対応をして、再検査が受けやすい環境づくりをしていきましょう。
ただし、健康診断の中でも、特殊健康診断において「有所見(異常あり)」となった場合は、再検査を受けなくてはなりません。再検査の費用も会社負担となるため、注意が必要です。
健康診断受診に要した時間の賃金の支払いは、必ずしも必要というわけではありません。定期健康診断や雇入れ時の健康診断などの一般健康診断は、一般的な健康確保を目的として会社に実施義務を課しているため、業務を遂行するうえでの直接的な関連はないのです。よって、受診時間の賃金は労使間の協議によって定めるべきとされています。
ただし、厚生労働省によると、「円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者(会社)が支払うことが望ましい」としています。また、労働安全衛生法でも「事業の円滑な運営の不可決な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者(会社)が支払うことが望ましい」との記載があります。
なお、特殊健康診断においては業務上必要な健康診断のため、原則労働時間内の受診と賃金の支払いが必要とされています。
出典:厚生労働省「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」
人事・総務部にとっての健康診断は、受診案内をしたり健康診断の予約をしたりするだけで終わりではありません。5年間の健康診断結果の保管や健康診断結果による有所見者の確認、再検査の受診勧奨などの事後措置も業務のうちです。
業務の量が多いとはいえ、医師への意見聴取は受診日または結果提出日から3ヵ月以内と、法律で定められた期間までの早急な対応が求められます。指定の期限を過ぎると、労働基準監督署から指摘される可能性があるため注意が必要です。このような負荷の多い健康診断の事後措置には、ペーパーレスで健康管理の効率化をサポートしてくれる「Growbase(旧:ヘルスサポートシステム)」の導入をおすすめします。
Growbaseは、クラウド上で従業員の健康診断結果を一元管理できるクラウド型健康管理システムです。健康診断結果を数クリックでまとめられ、事後措置を効率的にこなせます。再検査などの受診勧奨対象者も簡単に検索することができ、対象者にはメールを一括配信して受診勧奨を行えます。受診勧奨の記録もシステム上に保存されるため、メールの宛先や送信日時などの履歴の確認も可能です。
また、健康診断の受診状況も把握できるため、健康診断を受診していない従業員もすぐに割り出せます。対象者のみに絞ったメール送信機能によって通知をすれば、健康診断実施義務が果たされやすくなるとともに、会社の健康経営推進に大きく役立ちます。ペーパーレスでの健康診断管理を行えば、人的コストという面での会社の負担が減るでしょう。
健康診断は、法によって定められた会社の義務です。そのため、費用は全額会社負担であることも義務化されています。従業員が希望して受けた検査や再検査では必ずしも費用を会社が負担する必要はありませんが、従業員への安全配慮義務の観点から、費用の一部または全額を負担する会社もあります。
健康診断は、会社の大切な力である従業員の生活習慣の見直しや病気の予防に欠かせません。健康経営を推進していくには、費用を負担したり受診時間内の給与を支払ったりするなどして、健康診断を受けやすくすることも大切です。