事業場において労働者が安全かつ健康に働くためには、安全衛生の考え方が重要です。しかし、一口に安全衛生と言っても、その範囲は様々で、事業場で働く全員が同じような発想をするとは限りません。そこで、全員が同じ目標を持てるように定めるのが「安全衛生目標」です。本記事では、安全衛生目標の概要や設定するポイントや具体的な実施項目、安全衛生目標の事例についてご紹介します。
安全衛生目標(労働安全衛生目標)とは、労働安全衛生方針に基づいて計測可能かつ具体的に立てられる目標のことを指します。また、労働安全衛生方針とは安全衛生に関する国際規格であるISO 45001の取得のために必要な「OHSMS(Occupational Health and Safety Management System)」、すなわち労働安全衛生マネジメントシステムの方向性を決める指針のことです。
簡単に言えば、労働安全衛生方針で職場の安全衛生に関する大枠を決め、その枠に従って実現可能な範囲の目標を可能な限り具体的に数値化して定めるのが安全衛生目標です。例えば、「従業員のメンタルヘルスを維持する」という方針のもと、「職場内でのハラスメントをゼロにする」という安全衛生目標を掲げる、といったような違いがあります。
第8条 事業者は、次の事項を文書により定めるものとする。
1.安全衛生方針
2.労働安全衛生マネジメントシステムに従って行う措置の実施の単位
3.システム各級管理者の役割、責任および権限
4.安全衛生目標
5.安全衛生計画
6.第6条、次項、第10条、第13条、第15条第1項、第16条および第17条第1項の規定に基づき定められた手順
労働安全衛生マネジメントシステムでは、以下の4つのことを行います。
OSHMSは、PDCAサイクルを通じて安全衛生管理を自主的かつ継続的に実施する仕組みです。PDCAサイクルとは、計画(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、改善(Act)の一連の過程を定めることで、マネジメントの品質を高めていこうとする取り組みのことで、労働安全衛生についてもPDCAサイクルの考え方を取り入れることで、システム監査・チェックの機能が働くようになります。
PDCAが効果的に運用されれば、安全衛生目標を達成し続け、職場環境の改善をはかることで事業場全体の安全衛生水準がスパイラル状に向上していくことが期待できます。このようにシステムを適正運用するためには、関係者の役割や責任、権限を明確にした手順化や、文書による明文化も重要です。
危険性や有害性の調査や措置は、いわゆるリスクアセスメントの実施です。そして、OSHMSではここまで解説してきたことを全社で推進していく体制を整えなくてはなりません。労働安全衛生方針を経営層などのトップが表明し、システム管理の担当者が実施・運用体制を整え、安全衛生を経営と一体化する仕組みを整えるのがOSHMSとも言えます。
ISO 45001とは、初めにも軽く触れたように労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格です。企業活動の中で労働安全衛生のリスク(怪我や事故、健康被害など)が起こらないよう、働く人の労働に関する負傷や疾病を防止するとともに、安全で健康的な職場を提供するために定められました。
ISO 45001が定められる前にはOHSAS 18001、OHSAS 18002などの国際規格がありましたが、中でもOHSAS 18001は労働安全衛生マネジメントシステムとして、ISO 45001の前身的存在となっています。そのため、ISO 45001の制定後はOHSAS 18001は順次ISO 45001への認証へ移行されています。
ここでは、安全衛生目標を設定するためのポイントを2つご紹介します。
安全衛生目標は、具体的な数値で示すことが重要です。例えば、労働安全衛生方針で「労働災害を可能な限り減らす」という方向性を定めたとしましょう。では、労働災害を減らすためには具体的にどのようなことに取り組めば良いのか、どのくらい取り組むべきなのでしょうか。これを具体的に定めるのが、安全衛生目標です。
例えば、「労働災害の件数を向こう1年間で20%減らす」「落下災害をゼロにする」などがわかりやすいでしょう。数値的な目標を定めることで、目標が達成されたかどうかの判断がしやすくなりますし、達成できなかった場合には達成率と比べてどのように改善していけばいいかどうかの検討材料にもできます。
安全衛生目標は一度の改善で終わりではなく、継続的な改善に結びつくような目標を立てることが重要です。PDCAサイクルでスパイラル的に職場環境を改善していくことをご紹介しましたが、安全衛生は常にその時々での最善を求めていくもので、一回改善すれば終わり、とすべきものではありません。
そこで、例えば「労働災害の件数を10%減らす」ことを目標にするなら、来年はさらに「去年よりも労働災害の件数を10%減らす」というように実施していけば、継続的な改善につなげられます。特に、ISO 45001などの第三者認証規格を取得するためには、施策を行うだけでなく、施策によってどのような結果が得られたかのプロセスも評価されますので、一時的な改善目標ではなく、継続につながるような目標を立てることが重要です。
労働安全衛生マネジメントシステムの認証規格では、現時点の安全衛生の水準だけでなく、継続的にどのような改善をしていけるかが監査の対象となります。これは労働安全衛生マネジメントシステムに限った話ではなく、マネジメントという仕組みそのものが継続的な改善を前提としているためです。
そのため、数値的な目標を掲げるとともにそれを継続していくための仕組みを作り、さらにはその施策の評価ができる体制も構築しなくてはなりません。実行責任者やモニタリングの時期などを定め、目標に対してどのくらいの進捗があったかを確実に把握できるような運用をしていく必要もあります。
安全衛生目標を達成するにあたり、具体的に行うべき実施項目について、5つご紹介します。
「ヒヤリハット」や「チョコ停」とは、以下のような意味を持っています。
チョコ停は回復させようとする作業の中で突然動き出したり、危険な箇所に接近したりする可能性があり、ヒヤリハットが起こりやすい状態です。チョコ停は短時間で終わるため、ヒヤリハットにまで至らず表面化しない場合も多く見られます。しかし、放置していると安全面でも製品の品質や生産性にも大きく影響するリスクがあり、多くの企業ではチョコ停の撲滅運動に取り組んでいます。
「1件の重大災害の裏には、29回の軽傷災害、300件の無傷害事故が起こっている」とハインリッヒの法則では言われています。この「300件の無傷害事故」=「ヒヤリハット」の時点で不安全状態や不安全行動をなくすことができれば、軽傷災害や重大災害を防ぐことにもつながると考えられます。
何らかの異常が起こった際には、「Man・Machine・Media・Management」の4Mについて分析することが重要です。
災害発生時は、どうしても不安全行動を起こした人や設備・装置の不安全状態に目が行きがちです。しかし、その不安全行動や不安全状態は作業方法や管理体制に問題があり、結果的に不安全行動や不安全状態につながった可能性も考えられます。そこで、災害発生時にはこれら4M分析を詳細に行い、再発防止や手順の標準化、管理体制の強化などをはかることが重要です。
異常が起こるということは、設備の故障や怪我などの災害が現れる前の予兆と考えられます。そこで、異常が起こったときにはどうするかのマニュアルがなければ制定したり、マニュアルがあっても抜けがあった場合には見直したりすると良いでしょう。軽微な異常の段階でマニュアルを整えておくことで、設備の故障や怪我による大事故を防ぐことにつながります。
また、マニュアル(手順書や基準書)としてまとめるだけでなく、定期的に異常が起こった場合の想定訓練をして内容の見直しを行ったり、実際にこれらの事態が発生した場合に効果的だったか検証し、内容をブラッシュアップしていくことも忘れてはいけません。
最後に、安全衛生目標の事例について、3つの企業の事例をご紹介します。
三和建装株式会社では、2021年の安全衛生目標を「全事業所での無事故・無災害」とした上で、さらに重点的に実施すべき事項として以下の5つを掲げています。
安全衛生目標に数値が入っていることや、安全衛生目標をさらに具体的に落とし込み、現場で実行しやすいように項目が設けられていることがわかります。特に長引くコロナ禍、近年の夏の気温上昇などの中では、感染症対策や熱中症対策は労働災害を防ぐ上で非常に重要なポイントです。
吉川建設株式会社では、2022年の安全衛生目標を「労働災害、交通事故、公衆災害0件」とした上で、安全衛生スローガンとして「つみ取ろう危険の芽 達成しよう0災害!」とわかりやすくまとめています。
また、実際に労働災害や交通事故・公衆災害を防止し、心身の健康保持・増進をはかるためにすべきことは重点実施事項として非常に細かく決められており、さらに店社が実施する事項、作業所が実施する事項、関係請負人が実施する事項に分けて詳細に取り決めがなされています。安全衛生管理体制の徹底が伺える安全衛生目標です。
株式会社タカギセイコーでは、2022年の安全衛生目標を「労働災害0件、健康診断と2次健診の受診率100%」としています。スローガンにも「“労働災害ゼロ”を徹底推進しつつ、心身の健全化による快適な職場づくりを目指そう!」とあり、労働災害0件に加えて健康診断による従業員の心身の健全化も目標として掲げられていることがわかります。
さらに労働災害0件を目指すための具体的なリスクアセスメント、作業書の見直し、安全衛生教育の実施、安全衛生委員会の充実など、具体的にすべきことが図や色を使ってわかりやすくまとめられています。これも、安全衛生管理体制の徹底のために必要な事柄が徹底してまとめられている一例と言えるでしょう。
安全衛生目標とは、ISO 45001の認証を受けるための労働安全衛生マネジメントの一環でもありますが、労働災害や健康被害を防ぐため、事業場の全員が掲げるべき目標でもあります。そのため、数値化や継続的な改善を視野に入れた目標にするとともに、今回ご紹介したような実施項目を取り入れると良いでしょう。
このように、安全衛生目標を策定するためには、そもそも事業場における課題について知らなくてはなりません。Growbase(旧:ヘルスサポートシステム)などのクラウド型健康管理システムなら、事業場や年代・性別など様々な切り口で従業員の労働環境についてデータ集計が可能です。どんな課題があるか知るためにも、安全衛生管理のためにも、ぜひ一度導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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