労働安全衛生法の改正により、多くの企業でストレスチェックが義務化されることになりました。では、ストレスチェックが義務化されるに至った背景やその目的にはどのようなことがあるのでしょうか。本記事では、ストレスチェックの義務化について実施手順や注意点を交え、詳しくご紹介します。
ストレスチェックとは、従業員のストレス状態について知るために行われる検査のことで、従業員自身がストレスに関する質問票に記入し、結果を集計・分析・評価することで自分がどのようなストレス状態にあるか、ある部署やチームごとのストレス状態にどんな傾向があるか知ることができるというものです。
労働安全衛生法の改正により、ストレスチェックは常時50人以上の従業員を雇っている事業場で2015年12月から年に1回以上の実施が義務化されました。常時使用している従業員が50人未満の場合は努力義務とされていますが、できるだけストレスチェックを行うのが望ましいでしょう。
ストレスチェック制度を義務化した目的は、従業員自身のセルフケアと一次予防、職場環境の改善です。まず従業員自身が自分のストレス状態について知ることで、ストレスを溜めすぎないようセルフケアを行ったり、既に高ストレス状態にあった場合は医師の面接指導を受けて助言をもらったり、必要に応じて職場で措置をとってもらったりして、メンタルヘルスの不調や精神疾患の発症を未然に防ぐことができます。
ストレスは知らず知らずのうちに溜まっているため、高ストレス者ほど自分の状態に気づいていないことも多いです。そのため、ストレスチェックを受けて自分の状態に気づくだけでも意義があります。場合によっては医師との面談を通じて職場の配置転換や業務負荷を減らすなどの措置をとってもらうことも、心理的な負担を減らすためには重要です。
ストレスチェックが義務化されるようになった背景として、精神障害による労働災害の認定件数が増加傾向にあること、仕事など職業生活において強いストレスを感じる人の数が約6割にものぼることなどが挙げられます。
また、精神障害を発症した理由としては「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が最多で125件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が次点で71件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」は66件です。
つまり、何らかの悲惨な事故や災害で心理的に大きな負荷がかかったケースよりも、パワーハラスメントや業務内容の大きな変化の方が心理的負担による労働災害認定を受けている件数が多いといえます。
参考:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査」「令和3年 過労死等の労災補償状況」
パワーハラスメントや業務内容の変化については、適切な対処を行い労働災害を引き起こす前に防ぐことが喫緊の課題です。そこで、まずは心理的負担を感じているか、それはどのような心理的負担なのかチェックするため、ストレスチェックが義務化されました。
ストレスチェックが義務化されるのは、常時50人以上の従業員を雇い入れている事業場です。「常時使用する従業員」には、正社員のほか、以下の要件を満たすパートタイマーやアルバイトなどの非正規社員も含まれます。正社員だけが対象となるわけではないため、注意が必要です。
また、派遣社員についてはストレスチェックの実施義務は派遣元の企業にあるため、派遣先の企業に法的な実施義務はありません。とはいえ、ストレスチェック自体は現場の状況を調べるものであるため、派遣先企業が一斉に行う方が効果的だとする考え方もあります。どこまでをストレスチェックの対象にするかは企業によってルール決めができますので、派遣社員も含めてストレスチェックの対象にすることも可能です。
ストレスチェックの実施は1年以内に1回以上であり、前回の実施から1年以内に次のストレスチェックが行えれば問題ありません。また、半年ごとなど実施頻度を高めるのは自由です。いつ実施するのが良いかは、衛生委員会で討議した上で決定するのが望ましいでしょう。
なお、ストレスチェックの実施義務がある事業場がストレスチェックの実施を怠った場合の直接的な罰則はありませんが、労働基準監督署へストレスチェック実施の報告を怠った場合、50万円以下の罰金が課せられます。必ず正しく実施し、実施後は速やかに労働基準監督署への報告を行いましょう。
ストレスチェックを導入する前の準備として、まず様々な取り決めを決めることが必要です。具体的には、以下のようなことを決めましょう。
実施者や実施事務従事者には、人事や総務の担当者(人事権を持つ人)はなることができません。特に、実施者になれるのは医師や保健師、または「厚生労働大臣の定める研修を受けた、看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師」のいずれかです。産業医と契約していれば、産業医が担当者になるのがその後の面接指導も含め最もスムーズでしょう。
ストレスチェックを行う時期や質問票の内容、評価基準や担当医、結果の保存についてまで詳細が決まったら、社内ルールとして明文化し、周知徹底しましょう。ストレスチェック制度の実施方法については安全衛生委員会の調査審議事項の1つとなっていますので、安全衛生委員会にて精査することも重要です。
準備が整ったら、実際にストレスチェックを行います。ストレスチェックの実施方法自体は簡単で、質問票を配布し、従業員自身に記入してもらうだけです。紙で受検してもらう方法以外にも、後述するクラウド型健康管理システムなどを使えば、ストレスチェックをシステム画面上で簡単に行う方法もあります。
紙で受検してもらった場合も、システム画面上で回答してもらった場合も、結果は実施者と回答した本人以外が見られないように細心の注意を払う必要があります。特に、人事権を持つ職員が勝手に見ることは禁じられていますので、うっかり目に入るなどのミスがないよう、用紙やデータの取り扱いには十分注意しましょう。
ストレスチェックの実施が終わったら、質問票への回答をもとに実施者(医師など)がストレス状態を評価し、本人に結果を通知します。このとき、高ストレス者を中心に医師の面接指導が必要とされるかどうかの判定も行い、同時に本人に通知しましょう。高ストレス者の判断には、一般的に「ストレスの自覚症状が高い」または「自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポート状況が著しく悪い」の2つが基準とされます。
このように、ストレスチェックの結果は通常、実施者と本人にしかわからないような形で行われます。企業が結果を知るためには、本人への結果通知が行われた後、同意を得なくてはなりません。ただし、本人から医師による面接指導の希望があった場合は、企業が結果を知ることに同意があったものとみなされます。
前述のように、ストレスチェックを行った結果高ストレスと判定された者、または医師の判断で面接が必要とされた者は、本人からの申し出があれば医師による面接指導を行います。申し出は結果の通知から1ヶ月以内、面接指導は本人による申し出からさらに1ヶ月以内に行う必要があります。
また、面接指導を実施した後は1ヶ月以内に医師の意見を聴き、就業上の措置が必要かどうか判断します。医師の意見に基づき、休職や配置換え、労働時間短縮など職場環境改善の必要があれば、それに応じて措置を行いましょう。
ストレスチェックを実施した後、部署や課ごとのグループで結果を分析し、ストレス傾向をさぐること(集団分析)や、分析結果から職場環境の改善をはかることが企業の努力義務とされています。努力義務なので法的な義務があるわけではありませんが、ストレスチェックの結果を活かすためにも、ぜひ集団分析や結果に基づく職場環境の改善に着手しましょう。
集団分析を行う際は、原則として10人以上のサンプルをもとに分析を行います。これは、10人未満では個人が特定されるおそれがあるため、分析を行うために結果を閲覧するにあたり、全員の許可をとらなくてはならなくなるためです。
ストレスチェックの結果は、紙またはデータで5年間保存しておく必要があります。また、ストレスチェックの後、高ストレス者に対して行われる面接指導の結果も同様に5年間保存しておかなくてはなりません。特に評価結果については、実施者または実施事務従事者が、鍵のかかるキャビネットやデータサーバーに保管しておくことが求められます。また、クラウド型健康管理システムなどの電子媒体に保管する形でも問題ありません。
面接指導の結果を記録しておくにあたっては、以下の内容が必要となりますので、必ず記載されているかどうか確認しましょう。
最後に、ストレスチェックを実施する際の注意点について3つご紹介します。
ストレスチェックで最も重要なことは、ストレスチェックの結果を元に医師の面談を申し出たり、面接指導の結果、就業上の措置を願い出たりした際、これらを理由として従業員に不利益な扱いをしてはならないということです。当然、面接指導の結果やストレスチェックの結果によって解雇や雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換、職位の変更などを行うことも禁じられています。
また、逆にストレスチェックを受けないこと、ストレスチェックの結果を企業側へ知らせないこと、高ストレス者と判定されたにも関わらず面接指導の申し出を行わないこと、などによって不利益な扱いをすることももちろん禁止です。ストレスチェックや面接指導は、あくまでも企業側が従業員の心理的負担を減らし、心身の健康を保つための取り組みなため、関連して不利益な扱いをすることは認められません。
ストレスチェックや面接指導の内容は、個人情報にあたります。そのため、産業医や保健師などの実施者、実施事務従事者には守秘義務が課されます。万が一本人の同意がないのに結果を第三者に漏らしてしまった場合、刑罰が課されますので注意しましょう。人事・総務担当者であっても、本人の同意なく結果を聞き出すことはできません。
また、本人の同意を得た上でストレスチェックや面接指導の結果を取得した場合、業務上必要な範囲を超えてストレスチェックの結果を共有することは禁じられています。ストレスチェックや面接指導の結果は重大なプライバシーであることを認識し、厳重に情報を保護できるよう努めましょう。
ストレスチェックが義務化されたのは2015年12月に労働安全衛生法が改正されてからで、常時50人以上の従業員を使用する事業場で1年以内に1回以上の実施が求められます。ストレスチェック自体は難しいことではありませんが、結果の取り扱いやその後の措置が重要な取り組みなので、十分に注意しながら実施しましょう。
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<監修者プロフィール>
大川昭宏
平成9年 帝京大学医学部卒業。
国立精神神経医療研究センター、国立国際医療研究センター心療内科を経て、
現在、かつしか心身総合クリニック顧問医。
帝京大学医学部医学教育センター臨床教授。心療内科、精神科専門医・指導医。
上場企業中心に約30社の産業医を行っている。