ストレスチェックは、法律によって従業員に受けさせることが事業者に定められた義務の一つです。ストレスチェックには規定する法律のほか、関連する法律がたくさんあります。ストレスチェックに関わる法律は、実際にどのくらいあるのでしょうか。本記事では、ストレスチェックに関連する法律について、実施に関する指針、実施後の面接指導に関する法律などを含めてご紹介します。
ストレスチェックとは、従業員が自身のストレス度合いに気づき、セルフケアや必要に応じて医師の面接指導を受けるために行う検査のことを指します。検査方法はあらかじめ用意された質問票に記入し、結果を集計するというもので、当該従業員のストレス度合いがどのくらいなのか、どんな状況にあるかがわかります。
ストレスチェックの結果からセルフケアにつなげたり、集団分析を行って労働状況の改善に努めたり、高ストレス者への医師の面接指導から職場環境の改善を行ったりすることができます。そこから、従業員のメンタルヘルス不調や精神疾患の発症を未然に防ぎ、労働災害を減らすことにつながるのです。
ストレスチェックを規定する法律は、労働安全衛生法第66条の10「心理的な負担の程度を把握するための検査等」です。
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。 |
労働安全衛生法第66条の10には2〜9の項もあり、医師などの実施者が勝手に第三者にストレスチェックの結果を漏らさないこと、面接指導に関する取り決め、国の努めなどについて書かれています。
また、他にもストレスチェックに関連する法律があります。ここでは、ストレスチェックを規定する法律、実施に関連する法律、結果に関連する法律、ストレスチェック後の面接指導に関する法律に分けてご紹介します。
ストレスチェックを規定する法律は、主に上記でご紹介した「労働安全衛生法第66条の10」です。それに加え、労働安全衛生法の附則第4条、労働安全衛生規則第52条の9でストレスチェックの義務化の条件を詳しく定めています。
労働安全衛生法附則第4条(心理的な負担の程度を把握するための検査等に関する特例) 第13条第1項の事業場以外の事業場についての第66条の10の規定の適用については、当分の間、同条第1項中「行わなければ」とあるのは、「行うよう努めなければ」とする。 |
労働安全衛生法第13条第1項の事業場とは、産業医を選任し、労働者の健康管理などを依頼している事業場のことを指します。これはすなわち、常時使用している労働者が50人以上の事業場のことです。
労働安全衛生規則第52条の9(心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法) 事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次に掲げる事項について法第66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。 1.職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目 |
第52条の9では、ストレスチェックの実施頻度と内容について定めています。ストレスチェックの質問票は厚生労働省で提供しているもののほか、企業が独自に定めたものを使えますが、上記の1〜3の内容がきちんと盛り込まれているものにしなくてはなりません。
ストレスチェックの実施に関連する法律として、以下のものがあります。
労働安全衛生法第13条は産業医に関するもの、18条は衛生委員会に関するものです。ストレスチェックの実施は衛生委員会で審議され、産業医が実施者になったり、面接指導を行ったりするためです。労働安全衛生法施行令第5条では、産業医を選任すべき事業場の規模について定めています。
労働安全衛生規則第14条、14条の2では、産業医の職務や産業医に提供する情報について定めています。産業医が適切に職務を実行するためには、労働者の労働時間やその他健康管理に関する情報を知らなくてはならないためです。
労働安全衛生規則第22条では衛生委員会でストレスチェックを審議すべきことを、第52条の10では検査の実施者についてを定めています。特に検査の実施者については以下のように、人事権を持つ人が検査の実施者にはなれないことが明確に定められています。
労働安全衛生規則第52条の10(検査の実施者等) 法第66条の10第1項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者とする。 1.医師 3.検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師 第52条10の2項 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。 |
また、労働安全衛生規則附則(平成27.3.5 厚生労働省令第30号)第2条では平成27年12月1日より実施者となれる者に追加された看護師または衛生保健福祉士について、平成27年11月30日において労働者の健康管理等の業務に従事した経験が3年以上ある場合、厚生労働省が定める研修をクリアしていなくても実施者になれる、という経過措置を定めています。
ストレスチェックの実施に関しては、さらに法律だけでは言及しきれていない細かい指針として「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が公表されています。この指針では、主に以下の内容が詳しく定められています。
この指針を読めば、ストレスチェック制度を実施する手順や体制の整備方法、ストレスチェック実施後の面接指導や集団分析、職場環境の改善の方針、個人情報の保護まで一通りの方向性がわかります。ストレスチェックの実施に際しては、まずこの指針をしっかり読みましょう。
ストレスチェックの結果やその情報・記録の取扱いについては、労働安全衛生法第104条・105条に加え、労働安全衛生規則第52条の11〜14、21で定められています。結果の取扱いについて大枠を定めているのが、労働安全衛生法第104条の1項です。
労働安全衛生法第104条(心身の状態に関する情報の取扱い) 事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りではない。 |
つまり、労働者の心身の健康確保のために必要な範囲を除き、労働者の同意なく勝手に情報を収集したり、利用したりしてはならないということです。ストレスチェックの結果に関して秘密を保持すべきことは、第105条で定められています。
労働安全衛生規則52条の11〜14では、検査結果の記録の作成、通知、労働者の同意の取得、集団分析について定められています。特に記録の作成や通知については、検査の実施者から通知を行うこと、実施結果の記録は適切に保存することなどが定められており、結果の通知や保管には細心の注意を払う必要があるとわかります。
最後に、第52条の21「検査及び面接指導結果の報告」では、労働基準監督署への報告について規定されています。
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第6号の2)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。 |
ストレスチェック後の面接指導については、労働安全衛生規則第52条の15〜19で定められています。対象となる労働者、実施方法、確認事項、記録の作成、医師からの意見聴取それぞれについての規定が順に記されており、確認事項や記録の作成については内容も細かく定めています。
労働安全衛生規則第52条の17(面接指導における確認事項) 医師は、面接指導を行うに当たっては、申出を行った労働者に対し、第52条の9各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項について確認を行うものとする。 1.当該労働者の勤務の状況 第52条の18(面接指導結果の記録の作成) 事業者は、面接指導の結果に基づき、当該面接指導の結果の記録を作成して、これを5年間保存しなければならない。 第2項 1.実施年月日 |
最後に、ストレスチェックに関する罰則や注意点について解説します。
ストレスチェック未実施に対する直接的な罰則はありません。しかし、ストレスチェックの結果についての報告義務を怠ったことには罰則が設けられています。これが間接的にストレスチェックの義務化に対する罰則として機能していると言えるでしょう。
ストレスチェックの結果に関する報告義務を怠った場合、その罰則は労働安全衛生法第100条と第120条の5で定められています。
労働安全衛生法第100条
労働安全衛生法第120条
5号
|
つまり、ストレスチェックが義務化されている「常時50人以上の従業員を使用する事業場」においては、労働基準監督署へストレスチェックの結果について報告しないと、最大で50万円の罰金が課されることになります。ストレスチェックの実施が努力義務とされている「常時50人未満の従業員を使用する事業場」では結果報告も義務づけられていません。
ストレスチェックの結果、また面接指導において労働者に不利益な取扱いをしてはならないことは、指針で定められています。不利益な取扱いとは、主に以下のようなことを指します。
例えば、面接指導の結果、当該従業員の心身を保護するために本人の希望に沿った配置転換を行うことは、不利益な取扱いに当たりません。しかし、ストレスチェックや面接指導の結果によって、企業が一方的に本人の希望や意志を無視した配置転換を行ったり、嫌がらせで配置転換を行ったりすることは禁じられています。
他にも、ストレスチェックを受けない、事業者への結果の提供に同意しないなどで不利益な取扱いをしてはならないことが定められています。特に、ストレスチェックの結果だけで面接指導を受けていない従業員に対しては、就業上の措置の要否や内容を判断できないとし、ストレスチェックの結果だけを理由とした不利益な取扱いをしてはならないこともはっきりと書かれています。
ストレスチェックの結果について、健康情報として適切に保護することが指針で定められています。ストレスチェックの結果は個人情報であり、企業が当該従業員の同意を得ることなく、勝手に実施者から聞き出すことはできません。もちろん、人事に関わる権限を持つ者は、ストレスチェックの実施者になれないことは前述の通りです。
個人情報を保護するための方法として、集団分析の最小単位も定められています。集団分析を行う人数が少なすぎると、個々の労働者が特定されてしまう可能性があるためで、10人未満の人数で集団分析の結果を実施者が事業者に提出する場合には、集団に含まれるすべての従業員の同意を得なくてはなりません。
ストレスチェックを規定する法律は、労働安全衛生法第66条の10「心理的な負担の程度を把握するための検査等」です。また、それ以外にも実施や結果、面接指導に関してなど、詳しくさまざまな法律が定められています。
ストレスチェックは法令で50人以上の事業場に義務づけられていますが、実施しないことに対する直接の罰則はありません。しかし、労働基準監督署への報告義務を怠ると罰則があります。他にも、さまざまな法令や指針を遵守しながら実施する必要があります。法令遵守の上でストレスチェックを行うためには、Growbase(旧:ヘルスサポートシステム)などのクラウド型健康管理システムを使うと便利です。ぜひ一度、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
Growbaseを導入することにより、健康管理業務にかかる時間や工数を削減することが可能です。組織全体の健康課題を可視化することで、早めのフォローを実施しやすくなります。
また、使いやすいUIと自由度の高い機能を備えており、個別・一括メール配信、面談記録、受診勧奨、部下状況、特殊健康診断の業務歴調査と管理、健診データ一元化、各種帳票出力(労基報告など)、ストレスチェック、長時間労働管理などの機能が充実しています。
以下で、Growbaseの詳細をご確認ください。
クラウド型健康管理システム「Growbase(グロウベース)」の詳細はこちら