メンタルヘルス対策とは、従業員が精神的に健康な状態で働けるよう、企業が実施すべき取り組みのことです。メンタルヘルス対策が重要視されている一方、実際に取り組んでいる企業は多くないのが現状です。しかし、企業の成長や発展のためには、メンタルヘルス対策が欠かせません。
今回は、メンタルヘルス対策の重要性や企業に対するメリット、具体的な進め方や取り組み、注意点を解説します。メンタルヘルス対策に着手したいものの、具体的に何をすれば良いかわからず困っている担当者は、ぜひ参考にしてください。
そもそもメンタルヘルスとは、精神的な健康状態のことです。従業員が健康に過ごすためには、身体的な健康状態だけでなく、精神的な健康状態を良好に保つ必要があります。
すべての従業員が長く健康的に働けるよう、メンタルヘルスに不調を抱えている従業員だけでなく、現在心身ともに健康的に働けている従業員に対しても、メンタルヘルス対策を実施しなければなりません。
個人の調査では、ストレスを感じている労働者が多く存在する結果となりました。現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は53.3%であり、半数以上です。
しかし、メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業が多いとは言えません。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は 59.2%、つまり6割未満という結果が出ています。つまり、メンタルヘルスの問題は深刻である一方、企業の取り組みは十分に行われているとは言えないのです。
参考:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況 」
ここでは、企業がメンタルヘルス対策を実施すべき、以下の3つの理由について解説します。
そもそも、人材を雇用して価値創出をしてもらう以上、健康的に働ける職場を作ることは企業にとって重要な課題だと言えるでしょう。
加えて、メンタルヘルス対策を怠ると、さまざまなリスクがあります。
まず、従業員の集中力やモチベーションが低下すると、ミスが起こる可能性が高まります。取引上のミスは顧客の信頼を失いかねないものです。また、機械の操作や運転が必要な仕事の場合は大きな事故につながり、本人や近くの人が危険に巻き込まれてしまうリスクもあります。
さらに、仕事が原因でメンタルヘルス不調を引き起こし、もとのように働けなくなってしまった場合、従業員から労災請求や民事訴訟を起こされる可能性もあります。企業イメージの損失にもつながってしまうでしょう。
このように、リスクマネジメントの観点から、メンタルヘルス対策を実施することには大きな意義があります。
メンタルヘルス不調により従業員が休職・退職してしまうと、企業は貴重な人材を逃してしまいます。足りない人材を補うために追加で採用をしなければならないと、その分コストが必要です。また、従業員が離職すると、従業員にかけた採用・教育コストが無駄になってしまいます。
従業員がストレスなく働きやすい環境づくりを進めることで、離職率の低下・人材の定着が期待できます。働きやすい職場として評価されれば、求職者にとってのアピールにもなり、採用力の強化にもつながるでしょう。
メンタルヘルス対策により、従業員がモチベーション高く働けるようになれば、仕事で成果を出す従業員が増え、生産性の向上が見込めます。
メンタルヘルス不調が起こると、集中力や判断力、モチベーションが低下してしまいます。こうした従業員が増えれば、生産性は下がり、組織全体の活力も失われてしまうでしょう。
また、メンタルヘルス対策として社内コミュニケーションが活発化するような施策を導入すれば、組織が盛り上がり、活性化につながります。
生産性や組織の活力がアップした結果、企業が成長・発展することが期待できるのです。
メンタルヘルスケアでは、以下の4つが継続的かつ計画的に行われることが重要です。
メンタルヘルスケア | 内容 | 具体的な取り組み |
セルフケア | 従業員が、自らのストレスやメンタルヘルス不調に気づき適切に対処すること | ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解 ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き ストレスへの対処 |
ラインケア | 従業員が、自らのストレスやメンタルヘルス不調に気づき適切に対処すること | 職場環境等の把握と改善 労働者からの相談対応 職場復帰における支援 など |
事業内産業保健スタッフによるケア | 産業医や保健師、衛生管理者、人事労務担当者など、事業場内で産業保健にかかわる担当者が行うメンタルヘルス対策のこと | 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案 個人の健康情報の取扱い 事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口 |
事業場外資源によるケア | 病院やクリニック、地域保健機関、従業員支援プログラム機関などの事業場外の機関や専門家を活用したメンタルヘルス対策のこと | 情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用 ネットワークの形成 職場復帰における支援 など |
参考:厚生労働省「職場における心の健康づくり〜労働者の心の健康保持増進のための指針〜」
メンタルヘルス対策は、以下の3段階で実施する必要があります。
1次予防は、メンタルヘルスに不調が起こることを未然に防ぐ取り組みです。根本的なメンタルヘルス対策であり、即効性はないものの、従業員のモチベーションアップや生産性向上、企業の活性化などにつながる重要な対策と言えます。
2次予防は、メンタルヘルスに不調を抱えている従業員を早期に発見し、適切な措置を講じることです。異変に気づきやすい体制を整え、早期発見・対処により、症状が重くなってしまう前に適切な措置を講じられます。
3次予防は、メンタルヘルス不調で休職した従業員がスムーズに復帰できるよう、サポートすることです。休職者がほかの疾患を患ったり、重症化したりすることを防止する取り組みも含まれます。
仕事の進め方 | 仕事の量・コントロール 仕事の意義 役割の明確性 精神的負担 役割統括など |
オフィス環境整備 | 騒音・熱中症 粉じん・化学物質 休憩・休養設備など |
人間関係 | 上司のリーダーシップ 上司の公正な態度 上司のサポート 対人関係など |
安心できる職場の仕組み | 相談窓口 キャリア形成 公正な人事評価 ハラスメント対応など |
参考:こころの耳「Q9:なぜ職場改善がメンタルヘルス不調の予防となるのか?」
ストレスチェックは、労働者のストレス度合いを把握するための調査です。従業員はストレスを測る質問に回答し、結果が共有されることで、自らが抱えるストレスを認識できます。また、ストレスチェックの結果高ストレス者と判断された対象者には、産業医による面接指導が実施されるのが特徴です。
ストレスチェックは、労働者が常時50名以上の事業場については、実施義務が課されています。それ以外は努力義務ですが、従業員が自らのストレス度合いを把握し、適切に対処するきっかけとなるため、実施することが望ましいでしょう。なお、ストレスチェックの受検は任意ですが、多くの従業員が受検できるよう、企業は働きかける必要があります。
ストレスチェックでは、個人の結果を分析するだけでなく、企業全体の結果を分析する集団分析も実施できます。集団分析の結果から、職場環境の問題点が浮き彫りになるため、改善につなげやすいのがメリットです。
従業員がストレスを抱えた際に相談できる窓口を設置することも重要です。窓口は、設置するだけでなく、社内に周知する必要があります。また、ストレスを抱えている従業員を、管理監督者が相談窓口につなげることも大切です。
窓口を設ければ、休職者が復職する際のサポートもシームレスに行えます。
メンタルヘルスケアにおけるセルフケアやラインケアのためには、メンタルヘルス研修の実施が効果的です。
メンタルヘルスやストレスに関する基礎知識や、ストレスの対処法について従業員が理解できれば、セルフケアに活かせます。また、部下の異変に気づく方法や声のかけ方、効果的な1on1のやり方などを管理監督者が学べば、ラインケアがやりやすくなるでしょう。
さらに、全社的にメンタルヘルスについて共通認識を持てるため、メンタルヘルス対策に積極的に協力する姿勢が生まれ、職場環境の見直しや改善にもつながります。例えば、「メンタルヘルス不調は心が弱いからなるもの」という間違った考えを持つ従業員がいれば、メンタルヘルス対策は浸透しません。メンタルヘルス対策の重要性を訴求し、全社的に理解できる状態にすることが重要です。
職場でのコミュニケーション不足はメンタルヘルス不調を招くほか、周囲が不調に気づきにくくなる原因にもなるため、解消することが必要です。
近年では特に、テレワークが増えたことによる新たなメンタルヘルス問題が発生しています。テレワークでは、従業員間でコミュニケーションをとる機会が減り、孤独を感じやすくなるのが課題です。また、お互いが働いている様子が見えないため、上司が部下の異変に気づきにくくなります。
毎週決まった曜日に定例会議を実施する、バーチャルオフィスツールを導入する、オフィスにモニターを設置して在宅勤務者の映像を映し出すなど、テレワークであってもコミュニケーションを取りやすい環境を整えることが大切です。
効果的なメンタルヘルス対策を実施するためには、ストレスやメンタルヘルスに関する高度な知識が必要であり、企業の人事労務担当者のみで行うのは難しいでしょう。
そのため、産業医から積極的にアドバイスをもらったり、病院や地域保健機関、従業員支援プログラムといった事業場外資源を活用したりして、専門家に協力を仰ぐことが有効です。特に、小規模事業者で必要な事業内産業保健スタッフを十分に確保できない場合は、事業場外資源を積極的に活用しましょう。
産業医や事業場外資源を利用する場合は、個人情報保護を意識しながら、事前に十分な情報を共有することがポイントです。
企業のメンタルヘルス対策のなかでも、パワーハラスメント対策は重要です。職場のパワーハラスメントが原因で、うつ病や適応障害といった重大なメンタルヘルス不調に陥るケースが多く存在します。また、職場のパワーハラスメントが原因で精神障害を発病した場合は、労災保険の対象になるため、企業にもリスクがあります。
パワーハラスメント対策についてチェックするためには、厚生労働省の自主点検票の利用が効果的です。就業規則に盛り込むべき事項や、パワーハラスメントを行った者に対する適切な措置を行える体制の有無など、自社の状況をチェックできます。
参考:厚生労働省「職場のパワーハラスメント対策に係る自主点検票」
1つ目は、テレワークの社員を孤独にさせない環境を整備している事例です。オフィスにモニターを設置し、業務時間中に在宅勤務の社員を映し出すことで、同じオフィスで仕事をしているかのように感じられる工夫をしています。同僚とも随時会話でき、在宅勤務であっても孤独を感じずに仕事を進められます。
2つ目は、仮眠室を確保した事例です。夜間や早朝などにも勤務する業種の場合は、特に良質な睡眠をとることが欠かせません。あるタクシー会社は、乗務員が仮眠をとれる控室の整備を進めています。
ほかにもさまざまな取り組みが紹介されているため、ぜひ参考にしてください。
注意点を理解し、適切なメンタルヘルス対策を講じましょう。
メンタルヘルス対策では、従業員の健康情報を含む個人情報保護を取り扱うことになります。個人情報が漏えいしないよう、個人情報の保護に関する法律や関連する指針を守り、適切に取り扱うことが必須です。
メンタルヘルス不調者に対して、心の健康に関する情報を理由とした不利益な扱いは防止する必要があります。
以下のような扱いについては、一般的に合理的とはいえず、企業はこれを行ってはなりません。
今回は、企業は実施すべきメンタルヘルス対策について、その必要性やメリット、進め方、具体的な取り組み、注意点などを解説しました。
従業員が心身ともに健康に働ける環境を作ることで、生産性の向上や組織の活性化、企業の発展が期待できます。メンタルヘルス対策のためには、メンタルヘルスケアの内容や進め方を理解し、できる取り組みから着実に進めることが大切です。また、人事や産業医など、一部の担当者が実施するのではなく、全社的にメンタルヘルス対策の重要性を理解し、企業が一丸となって取り組むことが求められます。
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