メンタルヘルスケアにおいて重要な役割を果たすのが、産業医です。産業医は、従業員が良好なメンタルヘルスを保ちながら働ける職場環境を作ったり、メンタルヘルスに不調を抱えている従業員に適切なアドバイスをしたりすることに貢献します。メンタルヘルスケアにおいて特に重要と言えるのが産業医面談であり、産業医面談を円滑に進めるためには、事業者の協力も欠かせません。
今回は、メンタルヘルスケアにおける産業医の役割や、産業医面談を進めるためのポイント・注意点、産業医の選び方などを解説します。
産業医の役割は、労働安全衛生規則第14条において、以下のように規定されています。
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)」
従業員が心身ともに健康に働ける環境を作るためには、産業医による健康管理や面接指導、再発防止措置などが不可欠です。
産業医も、一般的な医師と同様に医師免許を保持していますが、医療行為を行う一般的な医師とは働く場所と業務に違いがあります。
一般的な医師は、病院で活動し、患者の検査や診察、治療などを行います。一方、産業医は企業で活動し、労働者の健康管理や労働衛生教育、アドバイスなどを担う存在です。
また、産業医は労働者個人だけではなく、職場環境全体の管理も行うのが特徴です。
ここでは、産業医が実施するメンタルヘルスケアの種類と、その役割について詳しく解説します。
産業医は、「事業内産業保健スタッフ」と見なされる存在です。
メンタルヘルスケアでは、以下の4つのケアが存在します。
このうち、事業内産業保健スタッフによるケアとは、産業医や保健師、衛生管理者、人事労務担当者など、事業場内のおける産業保健の担当者が実施するメンタルヘルスケアのことです。すなわち産業医は、4つのケアの一角を担う立場だと言えます。
事業内産業保健スタッフは、メンタルヘルス対策についての計画策定、従業員からの相談への対応、従業員の健康情報の取り扱いなどの取り組みを行います。
上記のとおり、メンタルヘルスケアには、ほかにも従業員自らが行うセルフケアや、管理監督者が行うラインケアなどがあります。メンタルヘルスケアを効果的に進めるためには、ストレスや身体に関する専門的な知識が必要であり、産業医のサポートが不可欠なのです。
このように、メンタルヘルスケアにおいて、産業医はセルフケアやラインケアの実施をサポートしたり、従業員が働きやすい職場環境体制を整備したりする重要な役割を担います。
産業医が実施するメンタルヘルスケアの中でも、特に重要なのが産業医面談です。産業医面談とは、産業医が従業員に対して行う個別面談のことで、従業員の健康状態を把握したり、アドバイスをしたりします。
産業医面談は、以下のような従業員に対して行われます。
従業員が産業医面談を受けることは義務ではなく、面談を受けるよう企業が強制することはできません。とはいえ、従業員の心のケアのためには産業医面談をうまく活用することが大切です。
ここでは、産業医面談について押さえておきたい以下のポイントについて解説します。
産業医には守秘義務があり、従業員本人の同意が得られない限り、労働者の健康管理情報を企業に伝えてはならないとされています。そのため、産業医面談で話した内容が、同意なく企業に伝わることはありません。
例えば、産業医面談では仕事の状況やストレス度合い、ストレスとなっている出来事などプライベートも含めてさまざまな話を聴取しますが、すべて守秘義務のもとにあります。
一方、産業医には報告義務も課せられています。これは、労働者が健康かつ安全に働ける状態かどうか、企業に対して報告する義務のことです。
基本的には守秘義務が優先されますが、従業員が働くうえで健康や安全にリスクがあると判断した場合は、本人の同意のもと企業に報告する必要があります。
産業医面談は、企業のメンタルヘルスケア推進において重要な役割を果たします。
従業員が心身ともに健康的に働けるようアドバイスをすることは、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための取り組みとして大切です。すでにメンタルヘルスに不調を抱えている場合は、産業医面談によって状況の悪化を防げる可能性が期待できます。
このように、メンタルヘルスケアにおいて産業医面談は欠かせないものです。
ここでは、産業医面談の実施にあたって理解しておきたいポイントや注意点を解説します。
多くの面談対象者が産業医面談に応じるためには、産業医面談の重要性を十分に訴求する必要があります。
中には、「産業医面談で話した内容が企業に伝わるのではないか」「人事評価に影響するのではないか」と不安を抱き、産業医面談に応じていない従業員もいるでしょう。
産業医面談で話した内容は本人の同意がない限り企業に共有されないことや、人事評価には影響しないことなどを伝え、安心して面談に応じられる体制を整えなければなりません。
産業医面談をする従業員に対しては、プライバシーを尊重した配慮をしましょう。
従業員によっては、自分が産業医面談の対象であることを周囲に知られたくない、と考える場合があります。そのため、面談に関して通知する際は、封書やメールを利用したり、個人面談を設定して誰にも聞こえない場所で伝えたりするなど、配慮が必要です。
産業医面談を実施して終わりでは、意味がありません。面談実施後、産業医から意見をもらい、それをもとに適切な措置を講じる必要があります。対象者の労働時間短縮や業務内容の変更、衛生委員会による労働状況の調査など、然るべき対応を取ることがポイントです。
職場環境を改善するためには、産業医の意見を参考にすると効果的です。
職場のメンタルヘルスケアは、産業医がすべて行うものではなく、事業者が率先的に取り組むべきものです。産業医という専門的立場からの助言や指導を活かし、事業者が中心となって職場環境を改善していく姿勢が求められます。
それぞれにメリット・デメリットがあります。以下で整理しているため、ぜひ参考にしてください。
探し方 | メリット | デメリット |
医師人材紹介会社 | 登録されている医師が多く、自社に合った産業医を選びやすい | 仲介手数料がかかる |
近隣の医療機関・地域の医師会 | 地域の産業医に来てもらえる | 費用が割高 自社に合わない産業医が紹介された場合、同じ地域という理由から断りづらい |
社内の人脈 | 希望の産業医を選べる | 産業医が見つかるとは限らない |
産業医を選ぶポイントは、以下の3点です。
ここでは、効果的なメンタルヘルス対策を行うための、産業医の選び方について解説します。
産業医には、従業員としっかりコミュニケーションをとったうえで、適切なアドバイスや休職・復職判断を行うことが求められます。コミュニケーションに問題があると、従業員と産業医の間でトラブルが発生する可能性があります。傾聴や対話などの能力に優れ、従業員が信頼して相談できる産業医を選ぶことがポイントです。
また、産業医は医療機関などの事業場外資源とネットワークを築くこともあり、社内外問わずさまざま人と関わる機会が豊富です。そのためにも、高いコミュニケーション能力があるかを重視して選びましょう。
事業者や労働者が抱える、メンタルヘルスに関する問題を解決するために必要な知識やスキルが十分に備わっているかどうかについても、重要なポイントです。
産業医は、労働安全衛生法第13条2項で「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。」と定められています。
このように、産業医には医学的な専門知識が求められます。また、産業医の職務を推敲するためには、企業のメンタルヘルス体制構築に関する知識やアセスメント能力、労働者の健康増進をサポートできるコーチング能力など、さまざまな知識・能力が必要です。
企業の現状や従業員のストレスなどを相談したときに、親身になって話を聞いてくれる当事者意識や、具体的な提案をしてくれる主体性のある産業医を選ぶ必要があります。
医学的な観点から意見を述べられることは専門家として大前提ですが、そこに能動的な働きかけが加わらないと、本質的な課題は解決できないでしょう。
自分の意見をしっかりと持ち、企業や従業員に寄り添ってくれる、主体性や当事者意識に溢れた産業医を選ぶことがポイントです。
今回は、メンタルヘルスケアにおける産業医の役割や重要性、産業医面談を進めるために事業者が注意すべきポイントや産業医の選び方などを解説しました。
メンタルヘルスケアを進めるためには、従業員の心身に関する高度な専門知識が必要です。産業医の協力を仰ぐことで、より効果的なメンタルヘルスケアを実行できるでしょう。
事業者は、産業医にすべてを一任するのではなく、産業医とともに安全かつ健康に働ける職場環境づくりを進めることが重要です。
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