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就業判定を実施する流れや健康診断後に事業者へ義務付けられている措置とは?類型ごとの具体的な措置も解説

作成者: Growbase編集部|10/5/23 2:15 AM

事業者は従業員が健康診断を受診した後、有所見者に就業判定を実施する必要があります。
昨今、採用が困難な状況のため、従業員の育成はもちろん、健康状態を良好に維持することの重要性が高まっている状況です。

ただし就業判定は、事業者だけでジャッジするのは難しいため、然るべき流れで実施しなくてはいけません。また従業員の健康診断後、事業者に義務付けられている措置もあるため注意が必要です。

ここでは、就業判定を実施する流れや健康診断後に事業者へ義務付けられている措置、類型ごとの具体的な措置などについて解説します。

就業判定とは

就業判定とは、労働安全衛生法に基づき、企業で健康診断を実施後、有所見者に対して、産業医の意見を聴取して行う義務がある、就業上の措置に関する判断のことです。

なお有所見者とは、健康診断の結果でいずれかの項目において何らかの異常の所見がある人のことを指します。健康診断の項目には身体測定、視力・聴力検査、血液検査、尿検査、胸部レントゲン検査などが含まれることが一般的です。異常の所見として貧血や高血圧、高血糖、肝機能障害、脂質異常症などが含まれます。

ただし、健康診断の項目や基準値については、職場や業種によって異なる場合があるため注意が必要です。例えば製造業などでは、特定の物質に対する曝露状況を調べる項目が追加されることもあります。

したがって就業判定は、従業員の療養や治療を促したり、勤務上の負荷を軽減したりするなど、企業が適切な措置を講じるために重要な取り組みです。

健康診断の実施後に事業者へ義務付けられている措置

健康診断実施後の事業者が行うべき措置については、労働安全衛生法において規定されています。ここでは健康診断の実施後、事業者へ義務付けられている措置について確認しておきましょう。

健康診断の結果についての医師等からの意見聴取

健康診断の結果、異常の所見が見られた従業員に対して、医師や保健師などの専門家から健康状態や受診すべき医療機関などについての意見を聴取することが、事業者には義務付けられています。

この意見聴取は、健康診断の結果通知書を受け取った従業員が自ら希望する場合や、医師が必要と判断した場合に行われるものです。原則として健康診断実施日から1か月以内に実施する必要があります。

健康診断実施後の措置

健康診断の結果、異常の所見が見られた従業員に対して、事業者は適切な事後措置を行うことも義務付けられています。

事後措置とは労働者の健康状態に応じて、職場や業務内容の変更、労働時間や時間外労働の短縮などの負担を軽減する措置です。医師や保健師などの専門家からの意見を参考にしながら、労働者と協議して措置の内容を決定します。

保健指導等

健康診断の結果、生活習慣病の発症リスクが高いと判定された従業員に対して、事業者は保健指導を行うことも義務付けられています。

保健指導とは、食生活や運動習慣などの生活習慣を改善するために、医師や保健師などの専門家からアドバイスや指導を受けることです。保健指導は、原則として健康診断実施日から3か月以内に開始し、1年間継続することが求められます。

健康診断から就業判定を実施するまでの流れ

健康診断から就業判定までの流れは、従業員の健康と安全を確保しながら、効率的で適切な労働環境を維持するために重要なプロセスです。産業医の専門的な判断によって、従業員の健康を守りつつ、適切な対策を講じることが求められます。

健康診断から就業判定を実施するまでの流れは、以下のとおりです。

1.健康診断の実施

事業者は従業員に対して1年に1回、医師による定期健康診断を実施しなくてはいけません。従業員の健康状態を評価し、労働環境に適しているかどうかを確認するために行われます。

医療機関や産業保健センターなどで行われ、健康情報や特定の健康問題に関する詳細な情報を収集することが一般的です。

2.診断結果を受領、および従業員への通知

事業者は健康診断の結果を、個人結果票として従業員に通知することが必要です。健康診断が終了した後、各従業員は自分の診断結果を受け取ります。

身体的な検査結果や異常の有無、必要に応じて追加検査が必要かどうかといった内容が含まれます。事業者は従業員に対して、健康状態の正確な情報を提供することが重要です。

3.産業医による判定

次に産業医が健康診断の結果を確認し、就業の可否や必要な措置の有無を判定します。

産業医は医学的な専門知識を持ち、労働環境と従業員の健康の関係性を理解し、適切な判断を下す役割を担います。就業判定の区分は通常勤務、就業制限、要休業の3種類です。

4.就業上の措置を決定

最後に、事業者が産業医の意見と従業員の意見を聴取し、就業上の措置を決定します。ただし措置の内容は、労働者に理解を得て実施しなくてはいけません。

従業員の健康状態が労働に支障をきたす可能性がある場合、適切な調整や配慮が必要とされます。例えば特定の業務からの移動や、必要に応じた作業時間の調整などの措置が一般的です。

健康診断の判定区分と結果を基にした就業判定の可否

健康診断の判定区分は、A判定からE判定までの合計5つがあります(実施する団体によって段階は異なります)。事業者は判定結果を参考に、従業員の就業判断の可否を判断しなくてはいけません。

ここでは健康診断における5つの判定区分と、それらを基に就業判断の実施が可能かどうかについて解説します。

健康診断の判定区分はおもに5つ

健康診断の判定区分は、検査項目ごとにおもにAからEまでの5段階で評価されます。(実施する団体によって段階は異なります)

・A判定:異常なし
・B判定:有所見健康
・C判定:要経過観察
・D判定:要再検査または要精密検査
・E判定:要治療

判定区分によって、必要な対応や注意点が異なるため注意しなくてはいけません。判定区分は、従業員が自分の健康状態を知るための目安となります。

なお、それぞれの判定区分ごとに必要な対策は以下のとおりです。

・A判定:健康状態に問題はない状態
・B判定:検査値が基準範囲からわずかに外れているが、病気の可能性は低い状態
・C判定:検査値が基準範囲からある程度外れているが、病気と断定できない状態
└生活習慣の改善や再検査を行う必要がある
・D判定:検査値が基準範囲から大きく外れている状態
└病気の可能性が高く、医師の診察や精密検査を受ける必要がある
・E判定:検査値が基準範囲から極端に外れている状態
└病気と診断された場合や治療中の場合に付けられ、医師の指示に従って治療を行う必要がある

健康診断の判定区分で就業判定は可能か?

健康診断の判定区分を参考に、事業者が従業員の就業判定をすることは可能です。ただし、場合によっては困難なこともあります。健康診断の判定区分は、病気の有無や重症度を示すものであり、就業に適しているかどうかを示すものではないためです。

また健康診断の判定区分は、検査機関やクリニックによって基準値が異なる場合もあります。そのため、同じ検査値でも区分が異なる場合はあるでしょう。

さらに、就業判定には健康診断の判定区分だけでなく、労働時間やストレスチェックなどの労働環境や労働者の希望も考慮する必要があります。したがって健康診断の判定区分だけでは、就業判定をしづらい場合も多いです。

そのため健康診断実施後は、産業医による意見聴取や就業判定などの総合的な判断に基づいて、適切な就業上の措置を講じることが求められます。

就業判定の区分と具体的な措置

就業判定の区分は3つに分類され、それぞれ措置の内容が異なります。ここでは就業判定の区分と、具体的な措置について確認しておきましょう。

就業判定の区分

健康診断の結果、産業医が必要と判断した従業員の意見聴取を行い、就業上の措置の必要性やその内容について判断が必要です。就業判定は、おもに次の3つの区分で行われます。

・通常業務:特に就業上の措置は必要なし
・就業制限:労働時間の短縮、作業の転換、深夜業の回数の減少などの措置が必要
・要休業:療養のため、休暇や休職などにより一定期間勤務させないことが必要

就業判定に基づく措置

就業判定に基づいて、事業者は労働者と協議して適切な就業上の措置を決定する必要があります。就業上の措置は、労働者の健康状態や職場環境に応じて個別に検討しなくてはいけません。

就業上の措置は、以下のような類型に分けられます。なお、就業判定の就業上の措置における「類型」とは、労働者の健康状態に応じて、就業制限や業務の転換など、適切な措置を講じるために、医師などが3つの区分で就業判定を行ったのち、判定結果に基づいて就業上の措置を決定することを指します 。

・類型1:就業が持病の疾病経過に悪影響を与える恐れがある場合(例:心不全や腎不全を持つ労働者の重筋作業)
・類型2:健康状態が原因で事故や災害につながる恐れがある場合(例:一部の不整脈や脳疾患を持つ労働者の運転業務や危険作業)
・類型3:生活習慣と関連した大きな健康リスクがあるにもかかわらず、勤務実態が適切な受診行動や生活習慣確保を妨げており、就業制限等をかけることによって、適切な受診行動や健康管理を促す必要がある場合(例:高血圧や高血糖を持つ労働者の長時間労働)

また就業判定に基づく措置は、労働者の健康状態と仕事内容に応じて、個別に決める必要があります。就業判定に基づく措置を以下の類型ごとに、事業者が実施すべき具体例は以下のとおりです。

・類型1:重筋作業の禁止や軽減、休憩時間の増加、勤務時間の短縮など
・類型2:高所作業の禁止や転換、安全装置の着用、同僚との連絡など 
・類型3:夜勤の禁止や転換、勤務時間の調整、メンタルヘルスケアなど

まとめ

従業員の健康診断後には、労働安全衛生法に基づく就業判定が必要です。産業医の専門的な判断により異常の所見がある場合、適切な措置を講じる必要があります。

また判定区分に応じて、医師の意見聴取や適切な措置を行う必要もあり、従業員の健康状態と職場環境を考慮した判断が必要です。就業制限や要休業などの措置を決定する際には、労働者と協議しなくてはいけません。

事業者は労働者の健康を守りつつ、適切な労働環境を提供することが、事業者の責任です。
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<監修者プロフィール>
医師、公認心理師、産業医:大西良佳
 

医学博士、麻酔科医、上級睡眠健康指導士、セルフケアアドバイザー
北海道大学卒業後、救急・在宅医療・麻酔・緩和ケア・米国留学・公衆衛生大学院など幅広い経験からメディア監修、執筆、講演などの情報発信を行う。
現在はウェルビーイングな社会の実現に向けて合同会社ウェルビーイング経営を起業し、睡眠・運動・心理・食に関するセルフケアや女性のキャリアに関する講演や医療監修も行っている。