安全管理者や衛生管理者は、事業場における労働環境、従業員の心身の健康状態などを守る業務を行います。事業場の規模によっては選任の義務がありますが、新しく選任された担当者の方などは、業務内容を詳しく知りたいと思うこともあるのではないでしょうか。本記事では、安全衛生に関わる管理者の種類や選任義務、業務内容や選任・資格取得の要件についてご紹介します。
安全衛生に関わる管理者には、「安全管理者」と「衛生管理者」の2つがあります。それぞれの管理者の定義や違い、設置義務について詳しく見ていきましょう。
安全管理者とは、安全衛生業務のうち安全にかかわる技術的な事項を管理する者のことを指します。安全管理者については労働安全衛生法第11条で定められており、作業場の巡回をして設備や作業方法に危険がないか確認したり、安全策を講じたりする役割を担います。
安全管理者はすべての業種で設置しなくてはならないわけではなく、法律で定められた業種で、かつ常時使用する労働者が50人以上の事業場で設置が義務づけられています。また、特殊化学設備を備える事業場において、都道府県労働局長が指定した場合には、指定する生産施設単位ごとに、必要な数の安全管理者を選任する必要があります。
衛生管理者とは、安全衛生業務のうち、職場の衛生環境を管理して労働者の健康や生命を守る者のことを指します。労働者の健康障害などを防ぐため、事業場の衛生管理や労働者の健康管理を行ったり、労働者に衛生教育を施したりします。衛生管理者は、常時使用する労働者が50人以上の事業場では業種に関わらず必ず設置が必要です。
また、衛生管理者は、衛生管理者免許、医師、労働衛生コンサルタント等の免許、資格を有する者からの選任が義務付けられています。このうち、衛生管理者免許には、衛生工学衛生管理者、第一種衛生管理者、第二種衛生管理者の3種類がありますが、有害ガス、蒸気、粉塵などを発散する作業場以外では、第一種衛生管理者、第二種衛生管理者のいずれかの選任となります。第一種と第二種の主な違いは「有害業務を含む業種でも業務遂行可能かどうか」であり、働ける業種に以下のような違いがあります。
第一種衛生管理者…電気業、ガス業、水道業、熱供給業などのライフラインに関する業種、医療業、清掃業、運送業、加工業を含む製造業、鉱業、建設業、自動車整備業、機械修理業などを含むすべての業種
第二種衛生管理者…第一種衛生管理者のみが従事できる業種を除くすべての業種。有害業務とは関連の少ない、金融業、保険業、卸売業、情報通信業など、営業やデスクワークが中心となる業種
第一種衛生管理者が従事できる業種は、生命を脅かすような労働災害や健康被害が発生する可能性が高いため、かなり業務内容に踏み込んだ専門的な知識が必要とされます。一方、第二種衛生管理者が従事できる業種の場合、生命に関わるような労働災害や健康被害にはつながりにくいため、第一種ほどの専門的な知識は必要とされません。
そのため、第一種衛生管理者の資格を取得していればどんな業種でも対応できますが、第二種衛生管理者の資格を取得している場合、対応できる業種が限られることが大きな違いです。
安全管理者と衛生管理者は、その業務目的が大きく異なります。
このため、安全管理者は置かなくてはならない業種が限られていますが、衛生管理者の場合は、すべての業種で必要とされます。
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業
また、以下の規模と業種では、専任の安全管理者を設置することが義務づけられています。
常時使用する労働者数 | 業種 |
300人以上 | 建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業 |
500人以上 | 無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業 |
1,000人以上 | 紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業 |
2,000人以上 | 選任が必要な業種で、上記以外のもの。 ※ただし、過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る。 |
衛生管理者は、常時使用する労働者が50人以上の事業場すべてで設置が必要な職種です。また、事業場に専属の衛生管理者を選任する必要があります。ただし、これも2人以上の衛生管理者を選任する場合、その中に「労働安全コンサルタント」が選任されているのであれば、労働安全コンサルタントのうちの1人は専属でなくても構いません。
事業場の労働者数に応じて、選任すべき衛生管理者の人数は以下のように決まっています。
常時使用する労働者数 | 衛生管理者の人数 |
50人〜200人 | 1人以上 |
201人〜500人 | 2人以上 |
501人〜1,000人 | 3人以上 |
1,001人〜2,000人 | 4人以上 |
2,001人〜3,000人 | 5人以上 |
3,001人〜 | 6人以上 |
また、以下のいずれかの要件を満たす職場の場合、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任とする必要があります。
また、法定の有害業務のうち一定の業務を行う「有害業務事業場」の場合、衛生管理者のうち1人を「衛生工学衛生管理免許」の所持者から選任する必要があります。法定の有害業務、ならびに法定の有害業務のうち一定の業務、とは、以下のような内容のことを指します。
労働基準法施行規則第18条では、以下の業務が有害業務として規定されています。
ざっくりまとめると、著しい高温や低温、異常な気圧、騒音や振動の激しい場所での業務、細かいチリやほこり、有害薬物などに曝露する危険性がある業務、などが当てはまります。
総括安全衛生管理者は、安全管理者や衛生管理者を複数抱える事業場で必要とされます。そのため、総括安全衛生管理者の選任が必要な事業場の規模や業務内容は、以下のようになっています。
常時使用する労働者数 | 業種 |
100人以上 | 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業 |
300人以上 | 製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 |
1,000人以上 | その他の業種 |
安全管理者や衛生管理者、総括安全衛生管理者などの選任義務に違反した場合、すなわち設置義務がある事業場なのに安全管理者や衛生管理者を選任しなかった場合、労働基準監督署から是正勧告や罰則(50万円以下の罰金など)を受ける可能性があるため、注意が必要です。
また、労働者が職場環境に起因する健康障害を発症したり、労働災害に巻き込まれたりした場合、労働安全衛生法違反として刑事責任を問われる可能性や安全配慮義務違反として民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。こうしたことにならないためにも必ず選任しましょう。
安全管理者は、以下の業務を行います。
また、安全管理者が行うべき「安全に関する措置」とは、具体的に以下のように規定されています。
このように、安全管理者が行う業務は危険防止や安全点検、発生してしまった災害原因の調査や、今後同じ災害が起こらないための対策、安全に関する資料の作成や記録などがあります。
衛生管理者は、以下の業務を行います。
このように、衛生管理者は作業環境や施設が従業員の健康を損なわないか確認したり、健康障害の可能性がある、または起こった場合に相談を受けて措置や再発防止の対策を行ったり、健康障害が起こった場合に記録や統計の作成を行ったりします。
総括安全衛生管理者は、以下の業務を統括・管理します。
これらの実務を行う多くは安全管理者、衛生管理者それぞれであり、総括安全衛生管理者はその指揮をとるのが主な業務です。また、以下のような包括的な業務は総括安全衛生管理者が中心となって行います。
安全管理者には、衛生管理者のように国家資格があるわけではありません。そのため、以下のA、Bいずれかに該当した者の中から選任します。
A. 以下の1〜5のいずれかに該当し、かつ、厚生労働大臣が定める研修(安全管理者選任時研修)を修了したもの
B. 労働安全コンサルタント
安全管理者選任時研修はさまざまな機関で行っていますので、最寄りの都道府県労働局に問い合わせるか、ホームページなどを検索してみましょう。(参考リンク:https://www.roukan.or.jp/anzenkanri-schu.html)
衛生管理者は、衛生管理者免許、医師、労働衛生コンサルタント等の免許、資格を有する者からの選任が義務付けられています。このうち、衛生管理者免許には、衛生工学衛生管理者、第一種衛生管理者、第二種衛生管理者の3種類がありますが、いずれも受験資格があります。ここでは、第一種衛生管理者、第二種衛生管理者の受験資格を紹介します。第一衛生管理者と第二衛生管理者で受験資格や費用、有効期限などは変わりません。ただし、試験内容や合格率などが若干異なりますので注意しましょう。
衛生管理者の受験資格は、以下のようになっています。
※1…大学、短期大学、高等専門学校には、専修学校、高等専門学校以外の各種専門学校、各種学校は含まれない。
※2…「省庁大学校」には、防衛大学校、防衛医科大学校、水産大学校、海上保安大学校、職業能力開発総合大学校の長期課程・総合課程、気象大学校の大学部及び国立看護大学校の看護学部看護学科(それぞれ旧法令による同等のものを含む。)が該当する。
※3…中等教育学校とは、中高一貫教育の学校のことであり、中学校のことではない。
※4…改正前の法令により、当該訓練と同等とみなされるものを含む。
このように非常に多岐にわたる受験資格ですが、一般的に適用されるのは主に以下の3つでしょう。以下のいずれかに当てはまっていれば受験可能ですので、衛生管理者の資格取得を検討している場合は、まず以下に当てはまっているかどうか確認しましょう。
なお、実務経験の年数を証明するためには、事業者証明書の提出が必要です。勤務中の会社や、過去に勤務していた会社に申請することで、発行できます。
衛生管理者の試験内容は、第一種衛生管理者試験と第二種衛生管理者試験でやや異なります。
<第一種衛生管理者試験>
関連法令…非有害業務関連7問、有害業務関連10問の計17問
労働衛生…非有害業務関連7問、有害業務関連10問の計17問
労働生理…10問 計44問、3時間
<第二種衛生管理者試験>
関連法令…非有害業務関連10問
労働衛生…非有害業務関連10問
労働生理…10問 計30問、3時間
衛生管理者の合格基準は、いずれも科目ごとの正答率が40%以上、かつ、全体の正答率が60%以上とそれほど高いものではありません。合格人数にも定員がないため、基準さえしっかりクリアすれば合格できます。
合格率は毎年、第一種衛生管理者で45%前後、第二種衛生管理者で55%程度です。他の国家資格と比べて合格率は高く、難易度もそれほど高いわけではありません。しっかりと対策をしていれば、取得は難しくないでしょう。
安全管理者も衛生管理者も、従業員が心身ともに安全かつ衛生的に業務を遂行できるようにするための技術的事項を担当する管理者です。常時使用する労働者の数が多い事業場などには総括安全衛生管理者も必要で、安全管理者、衛生管理者等を指揮し、安全衛生を統括管理する役割を担います。
安全管理者や衛生管理者が管理業務をスムーズに行うためには、労働環境の調査や従業員の心身の健康の把握が重要です。紙ベースでの管理には手間がかかりますが、Growbase(旧:ヘルスサポートシステム)などクラウド型健康管理システムを使えば、勤務状況や健康診断の受診状況など、従業員の状態が把握しやすいでしょう。特に、従業員の数が多い事業場では、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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