近年、従業員のメンタルヘルスをケアする方法の1つとして、コーピングリストが注目を集めています。しかし「コーピング」という言葉はそれほど浸透していないため、コーピングリストがどのようなものかを知らない方も多いでしょう。
そこで今回は、コーピングリストの概要や種類、導入方法などを解説します。
コーピングリストがどのようなものかを理解するためには、まずコーピングの意味を知っておくべきです。ここでは、コーピングとコーピングリストの意味、注目されている背景を解説します。
「コーピング」とは、メンタルヘルスの文脈において用いられる言葉であり、具体的には「ストレスに対処する行動」を指します。英語で「coping」と表現され、対処するという意味です。
コーピングはおもにストレスの原因を理解し、その負担を軽減する目的で実施されます。ビジネスの現場へコーピングを取り入れることにより、パフォーマンスやモチベーションの向上が期待できるでしょう。
コーピングは、ストレスに対処するための手法であり、「ストレスコーピング」は自分でストレスを自覚し、それに対処する方法を考える手法の1つです。ストレスマネジメントにはさまざまなアプローチが存在しますが、コーピングはストレス要因の解決と負担の軽減を目指す重要な手段といえます。
コーピングリストとは、自分がストレスを感じたときにどのように対処すればよいかを考え、その対処法をリスト化したものです。個々が直面するストレスに対して、具体的な対策を視覚的に整理し、活用するためのツールだといえます。ストレスを感じたとき、速やかにコーピングを実践するためには、事前にコーピングリストを作成しておくことが必要です。
コーピングリストに記載する対策の事例は、以下のようなものが挙げられます。
・気分転換をする:お気に入りの映画を見る、一人カラオケで歌いまくる、お気に入りのお菓子を食べるなど
・リラクゼーション:瞑想をする、アロマテラピーやマッサージを受けるなど
・運動:散歩に行く、ヨガをする、ジムで運動するなど
・自己啓発:本を読む、新しいスキルを学ぶ、セミナーに参加するなど
・社会的な活動:友人と会う、ボランティア活動をする、SNSで交流するなど
これらの対策事例は一部ですが、コーピングリストは個々のライフスタイルや好みに合わせてカスタマイズしていくものになります。自分がストレスを感じたときに、どのような行動が心地よいか、またはストレスを軽減するかを考えてみるとよいでしょう。それらの行動をリスト化し、ストレスを感じたときに参照することで、ストレス対処の選択肢を増やすことが可能です。
またコーピングリストは、できる限り元気な状態であるときに書き出すことが推奨されています。ストレスを感じているときは思考力が低下し、多くの選択肢を思いつきにくくなるためです。
近年、日本の企業では従業員のメンタルヘルスを重視する動きが強まっており、その一環として、コーピングリストが注目されています。
現代社会は情報過多であり、仕事やプライベートにおいてストレスを抱える方が増えている状況です。これにより、従業員のメンタルヘルス問題が深刻化しており、企業の生産性や業績にも影響を及ぼす可能性があります。そのため、さまざまな企業が従業員のストレス対策を重視し、その一環としてコーピングリストが導入されています。
またコーピングリストは、個々の従業員が自分自身のストレス対策を考え、それをリスト化することで、自己管理を促進する点が特徴です。その結果、従業員一人ひとりが自分自身のメンタルヘルスを管理し、ストレスと上手に向き合えるようになるでしょう。
コーピングの種類は、大きく以下の3つです。
・問題焦点型
・情動焦点型
・ストレス解消型
これらのコーピングの種類は、異なる状況や個々のニーズに応じて柔軟に適用することが重要です。また、これらのコーピング戦略は互いに補完的であり、1つのストレス状況に対して複数のコーピング戦略を組み合わせて使用するべきです。以下で、それぞれの内容を解説します。
ストレスの原因そのものにアプローチし、それを変化させて解決を目指す手法が問題焦点型コーピングです。具体的には、直面している課題に対して、自己努力や周囲のサポートを得て解決したり、対策を講じたりするなどの対処行動が挙げられます。
情動焦点型コーピングは、失敗や不可逆的な状況、喪失など、解決策が見当たらない場合に、怒りや不満、悲しみなどの感情を他者に打ち明け、それによって気持ちを整理するアプローチです。また、感情を内に抑え込む感情抑圧型コーピングと呼ばれるアプローチもあります。
ストレス解消型コーピングは、ストレスを受けた際の対処法であり、ストレスを解消するために外部に発散させることを目指すアプローチです。具体的な方法としては、買い物、美味しい食事、旅行、カラオケなどが挙げられます。気分転換を図ることにより、ストレスのリセットが期待できます。
コーピングリストはストレス管理、問題解決スキルの向上、自己理解の深化といった面で大きなメリットがあります。これらのメリットを活用することで、より健康的でバランスの取れた生活を送ることが可能になるでしょう。ここでは、コーピングリストを活用するおもなメリットをご紹介します。
コーピングリストは、ストレスや不安を軽減するための具体的な行動をリスト化するものです。そのため、困難な状況に直面したとき、どのように対処すればよいかを明確化できる点がメリットだといえます。自己効力感を高め、ストレスを軽減する効果が期待できるでしょう。
コーピングリストを作成する過程で、自分がどのように反応し、どのように対処するかを考えることによって、問題解決スキルが向上する点もメリットです。将来的に同様の問題に直面したときに、より効果的に対処するためのスキルを身につけられます。
コーピングリストを作成することにより、自分自身の感情や反応について深く理解することが可能です。自己認識を高め、自己成長を促進するのに役立ちます。また、自分がどのように感じ、どのように反応するかを理解することで、自分自身をよりよく管理し、自己効力感が高まる点もメリットです。
コーピングリストの作成は、ストレス対処法を一覧化し、自分自身のストレス管理を助けるための有効な手段です。以下で、コーピングリストの作成手順をご紹介します。
まず、コーピングリストを作成するためのツールを選びます。紙のノートでも、デジタルのメモ帳でも構いません。自分が普段使い慣れていて、いつでも見返せるものが最適です。
次に、これまでにストレスを感じたときに試してみた対処法を思いつく限りリストアップします。対処法は「散歩に出る」「好きな音楽を聴く」など具体的な行動や「深呼吸をする」など、簡単な行動でも問題ありません。
最後に、まだ試したことはないが、これから試してみたいと思う対処法をリストに加えます。コーピングリストは具体的な内容にすると、実際にコーピングを使うときに迷うことなく実践しやすいでしょう。「人に言える趣味なんてない……」といったことは心配せず、ちょっとしたものを多く準備することが大切です。
企業がコーピングを導入するための方法はいくつかあります。ここでは、具体的な手法をご紹介します。
企業内で気軽に相談できる環境を作ることが重要です。そのため、1on1やメンター制度を導入することは効果的だといえます。
1on1とは、上司と部下がマンツーマンで実施する定期的な対話の場です。またメンター制度とは、経験豊富な先輩社員(メンター)が後輩社員に対して、業務上の知識や経験を共有し、キャリア形成の課題や業務上の悩み解決を個別に支援する制度です。
1on1やメンター制度の実施により、上司が部下の話を傾聴してストレスの原因を突き止め、コーピングリスト化していきます。
従業員がストレスの仕組みや対処法を理解するための研修を提供することも、コーピングリストを導入する方法の1つです。
メンタルヘルス研修は、従業員がメンタルヘルスについて正しい知識を身につけ、適切な対処法を理解するために行われます。組織のパフォーマンス向上や離職率低下といったメリットが期待できるため、企業が積極的に取り組むべき研修といえるでしょう。
従業員はストレスとは何か、ストレスに自ら対処するためにはどうすればよいかなどを学びます。また、研修内でコーピングリストの作成方法や有効性を伝えることにより、従業員へ浸透させることも可能です。
なお、メンタルヘルス研修の詳細は、以下記事の内容もご参照ください。
メンタルヘルス研修の目的やメリットは?効果的な実施ポイントも解説
企業におけるカウンセリングの提供は、従業員のメンタルヘルスを支え、職場環境を改善するための重要な手段です。カウンセラーが従業員の心の悩みを聞き、心理に関する専門知識を活かして支援します。
カウンセリングを通じて、従業員は自分自身の心の状態を理解し、コーピングリストをはじめとした問題解決のための具体的な行動を学ぶことが可能です。また、カウンセラーは従業員の心の状態を理解し、適切な支援も提供できます。これにより、企業全体でメンタルヘルスに対する共通認識を持てるため、心身ともに健康で働きやすい職場環境を実現できるでしょう。
コーピングリストを作成する際には、以下の3つのポイントに注意することが重要です。
・お金がかからない
・時間がかからない
・健康に影響を及ぼさない
これらの注意点を押さえることで、コーピングリストの効果を高められます。以下で、それぞれの内容を解説します。
コーピングリストには、経済的な負担を伴わない対策を含めることが大切です。例えば、旅行はストレス解消に有効な手段ではありますが、頻繁に行うことは経済的に難しい場合があるでしょう。したがってコーピングリストに記す対策は、できる限りお金のかからないものがおすすめです。
コーピングリストには、すぐに実行できる対策を含めることが望ましいです。準備に時間がかかる対策よりも、すぐにできる対策のほうがよいでしょう。例えば深呼吸をする、瞑想をする、好きな音楽を聴く、短い散歩をするなどが考えられます。ストレスフルな状況に迅速に対応し、その影響を最小限に抑えることが可能です。一方で多くの時間がかかる対策の場合、忙しい方は実施できない可能性もあります。
コーピングリストには、健康に悪影響を及ぼさない対策を含めることも大切です。例えば、適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠、リラクゼーションのための瞑想などが考えられます。これらのアクティビティは身体的、精神的健康に良い影響を及ぼしますものです。
一方、過度の飲酒や喫煙、過度のカフェイン摂取、不健康な食事、過度な運動など、健康に悪影響を及ぼす可能性のある行動は避けるべきです。これらの行動は一時的にストレスを軽減するかもしれませんが、長期的には健康障害を引き起こす可能性があるためです。
従業員がストレスを感じたときに、どう対処すればよいかを考え、具体的な対処法をリスト化したものがコーピングリストです。コーピングリストを活用することで、従業員は以下のようなメリットが得られます。
・ストレスの軽減
・問題解決スキルの向上
・自己理解の深化
企業の人事担当者には、業務の生産性だけでなく、企業の評判も保つために従業員がストレスコーピングを実践できるような環境整備が求められます。これらの取り組みは、従業員のメンタルヘルスを保護し、企業の健康経営を推進するために重要です。また、そのためには従業員の健康状態を適切に把握しなければいけません。
そこでおすすめしたいのが、クラウド型健康管理システム「Growbase(旧:ヘルスサポートシステム)」です。Growbaseは従業員の健康に関するデータを一元管理し、健康経営を促進するクラウド型健康管理システムです。具体的には健診結果やストレスチェックデータ、就労データ、面談記録などの健康情報を一元管理し、健康管理業務の効率化を実現します。
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また、使いやすいUIと自由度の高い機能を備えており、個別・一括メール配信、面談記録、受診勧奨、部下状況、特殊健康診断の業務歴調査と管理、健診データ一元化、各種帳票出力(労基報告など)、ストレスチェック、長時間労働管理などの機能が充実しています。
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<監修者プロフィール>
医師、公認心理師、産業医:大西良佳
医学博士、麻酔科医、上級睡眠健康指導士、セルフケアアドバイザー
北海道大学卒業後、救急・在宅医療・麻酔・緩和ケア・米国留学・公衆衛生大学院など幅広い経験からメディア監修、執筆、講演などの情報発信を行う。
現在はウェルビーイングな社会の実現に向けて合同会社ウェルビーイング経営を起業し、睡眠・運動・心理・食に関するセルフケアや女性のキャリアに関する講演や医療監修も行っている。