健康診断は身体の健康状態を検査するもので、健康管理の第一歩です。健康維持や病気の予防・早期発見のために、現在の健康状態の把握が欠かせません。
従業員の健康診断は法律で決められており、会社の義務です。はじめて担当になった人も、間違いなく実務に取り組めるような準備ができるように、大事なポイントをわかりやすく解説します。
事業者は厚生労働省の省令により、従業員に対して医師による健康診断の実施が義務づけられています。(労働安全衛生法第66条第1項)また、労働者は事業者が行う健康診断を受診する義務がありますが、条件を満たした場合は結果を証明として提出すれば実施したとみなすこともできます(労働安全衛生法第66条第5項)。
事業者が決められた健康診断を実施しない場合、実施した結果を記録していない場合等、50万円以下の罰金が課せられます。(労働安全衛生法第120条)
労働者の健康を保つためにも、健康診断は必ず実施し、記録するようにしましょう。
※参考:労働安全衛生法 第12章 罰則(第115条の3-第123条)|安全衛生情報センター
事業者が行う健康診断とよく間違えられやすいのが、メタボ健診と呼ばれる特定健康診査(以下、特定健診)です。特定健診は、40歳以上74歳以下の健康保険組合の加入者(被保険者・被扶養者)が対象で、実施義務は保険者(協会けんぽ・健康保険組合等)にあります。
しかし、特定健診の検査項目は事業者が実施する健康診断と項目のおおよそが一致しているので、保険者は、健康診断の結果を事業者から受領すれば特定健診の結果としてみなすことができます。そのため、保険者から健康診断の結果の記録を求められた場合は、その写しを提供してください。その際、特定健診の項目に欠損がある場合は、欠損分を保険者が追加実施します。
保健指導は、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、実施するものです。これは、事業者が実施するもので、努力義務とされています(労働安全衛生法第66条第7項)。
一方、特定保健指導は、特定健診の結果に基づき、生活習慣病の発症リスクが高い加入者に対して、生活習慣の自主的改善を促すものです。これは、保険者に実施義務が課せられています(高齢者医療確保法第24条)。
よって、特定保健指導に関して事業者は実施の義務はありませんが、保険者が円滑に特定保健指導を実施できるよう、保険者への健康診断結果の提供や就業時間中の面接時間の確保など、協力を行うことが求められています。
目的 | 実施者(義務) | 関連法令 | |
保健指導 | 労働者の自主的な健康管理を促進する | 事業者(努力義務) | 労働安全衛生法第66条第7項 |
特定保健指導 | 生活習慣病の発症リスクが高い加入者に対し、生活習慣の自主的な改善を促す | 保険者(実施義務) | 高齢者医療確保法第24条 |
健康診断は健康を管理する上で欠かせません。すぐに症状が出ない病気であっても、健康診断を受診すれば早期に発見できる可能性があります。病気や病気のリスクが見つかった場合、健康診断後に医師の意見に従って勤務制限や休業をとることで、重症化や死亡のリスクを減らせます。
労働者が健康なことで生産性が上がり、結果として業績向上や会社の成長につながる可能性もあります。以上のことから、労働者の健康管理は労働者と事業者双方に必要と言えます。
参考:健康診断で企業が遵守するべき義務まとめ|実施時に注意するべきポイント
健康診断は、個人が任意判断で受ける「任意健診」と、労働安全衛生法などの法律によって実施が義務づけられた「法定健診」に分かれます。事業者で行われる健康診断はすべて「法定健診」です。法定健診は大きく「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類に分けられます。
参考:健康診断の種類にはどんなものがある?項目や規定を詳しく解説
労働安全衛生法に基づいて、事業者が労働者に対して実施するのを義務づけられた健康診断です(労働安全衛生法第43,44条)。
それに加え、極端に熱かったり寒かったりする場所での業務や、有害物質にさらされる、あるいは有害物質を取り扱う業務を行う特定業務従事者や、海外派遣の労働者の健診も含まれます(労働安全衛生法第45,47条)。
実施義務 | 種類 | |
一般健康診断 | 事業者 | ・雇入時の健康診断 ・定期健康診断(1年以内ごとに1回、定期で実施) ・特定業務従事者の健康診断(6か月以内ごとに1回、定期で実施) ・海外派遣労働者の健康診断(海外派遣前と帰国後) ・給食従業員の検便 等 |
健康診断を受診するのは、常時使用している労働者と定められています。常時使用する労働者とは1年以上使用する予定での労働者です。週の労働時間が正社員の4分の3以上である者で、必ずしも正社員に限られず、一定の条件を満たしたパートやアルバイトパートタイムの労働者も含まれます。
これらの条件を満たさなかったとしても、週の労働時間が正社員の2分の1以上のときは努力義務となります。また、派遣労働者の場合は、派遣元で健康診断を実施します。
有機溶剤健康診断(有機溶剤中毒予防規則 第29条)、特定化学物質健康診断(特定化学物質等障害予防規則 第39条)、じん肺健康診断(じん肺法第3条、第7~第9条の2)、石綿健康診断(石綿障害予防規則第40条~43条)といった法令で定められた物質を使用する等の業務に従事する労働者に対しては、雇入れ時、当該業務への配置換え時およびその後6ヶ月以内ごとに1回定期に、健康診断を実施しなければなりません。
また、特定化学物質を取扱う業務(労働安全衛生法施行令第22条第2項の業務に限る)に常時従事した事のある労働者で、現在雇用している者に対しても6ヶ月以内ごとに同様の健康診断を実施しなければなりません。
じん肺法施行規則においては定められた粉じん作業に常時従事し、または従事したことのある労働者に対しては、①就業時 ②定期 ③定期外 ④離職時に、じん肺健康診断を行わなければなりません。物質によって健診の頻度、検査項目が異なりますので注意しましょう。
各健康診断の検査項目の内容を紹介します。
参考:健康診断の種類と検査項目は?担当者が困らないための健康診断の基礎知識
雇入時の検査項目は、労働安全衛生規則第43条に基づいた11項目です。
定期健康診断は、労働安全衛生規則第44条に基づいた11項目です。
労働者が健康診断を受診しなくても法的な罰則はありませんが、事業者には罰則があります。労働者に対しては、事業者は健康診断の受診を職務上の義務として命令でき、就業規則に定めることで、受診を拒んだ従業員に懲戒処分を下すこともできます。
定期健康診断の場合、医療機関や健診機関によって異なります。事業者が行う法定健康診断は、労働安全衛生法に定められた通り全額事業者負担になります。労働者の健康診断の費用は、一定の条件を満たせば経費とみなされ福利厚生費として計上できます。
一方、自営業者やフリーランスの健康診断は「任意健診」となり、すべて自己負担です。加えて経費に計上することはできません。職場で健康診断を受けられない人に向けて、市区町村などの自治体が実施する健康診断がありますので自治体でご確認ください。
参考:健康診断は従業員の自費?健康診断の種類ごとに支払う対象者を紹介
厚生労働省の公式サイト『上手な医療のかかり方.jp』では、コロナ禍での過度な医療機関の受診はかえって健康上のリスクを高めてしまう可能性があると注意を促しています。一方で、医療機関や健診会場は換気や消毒でしっかりと感染予防対策しているので、安心して受診するように促しています。
厚生労働省が令和2年5月に発表した「新型コロナウィルス感染に係る緊急事態宣言の解除を踏まえた各種健診等における対応について」の中の緊急事態宣言が再度行われた場合の対象地域における各種健診等の実施では、下記のように決められています。
地域の状況を踏まえて、自治体や実施機関と連携をとりながら、健康診断を実施するように指導しています。
事業者は労働者の健康診断を実施する義務があり、費用はすべて事業者の負担となります。費用や実施の時期などを把握し、適切に健康診断を実施するよう心がけましょう。