秋は、ウォーキングイベントをはじめとする運動系の健康施策を企画しやすい季節です。企業によっては上期の健診やストレスチェックが一段落し、その結果を施策に生かすタイミングでもあります。一方、産業医として企業を拝見していると、イベントが「開催して終わり」になっているケースも少なくありません。今回は、健康施策を「やりっぱなし」にしないための工夫をお伝えします。
1.なぜ「やりっぱなし」になるのか
健康施策が単発で終わる背景には、共通のパターンがあります。目的がいつの間にか「開催すること」自体になってしまう。効果の測り方を決めないまま始めてしまい、終わってから比較するデータがない。そして、実施内容や結果が記録として残らない—この3つです。参加率や参加者の反応が手元にないままでは、翌年もまた手探りで企画を組み立てることになります。
2.施策を「やりっぱなし」にしないための3つの視点
では、健康施策を次につながる取り組みにするには、何を見ればよいのでしょうか。産業医の立場からは、「誰が参加したか」「行動が続いたか」「次の改善につながったか」の3つを重視しています。
まず注目したいのは「誰が参加したか」です。健康イベントでは、参加者がもともと健康意識の高い層に偏り、本来参加してほしい運動習慣のない人に十分届かないことがあります。単に参加人数を数えるだけでなく、年代や部署、運動習慣の有無など、可能な範囲で参加者の構成を確認してみてください。「何人参加したか」に加えて、「参加してほしい人が参加したか」という視点で評価することが大切になります。
次に見たいのが「行動が続いたか」という点です。数週間のイベントだけで長期的な健康改善を評価するのは難しく、大切なのは、イベントをきっかけにその後も身体活動が続くかどうかにあります。研究では、目標設定、フィードバックやモニタリング、社会的支援などが行動変容を促す方法として用いられています1)。ウォーキング施策であれば、参加のハードルを下げる、仲間と一緒に取り組めるようにする、歩数などの成果を本人に見える形で返す、といった工夫が考えられるでしょう。
3つ目は「次の改善につながったか」です。イベント終了後に、全体の参加率だけでなく、途中離脱の状況や参加者のアンケートなどを振り返ることで、「参加しやすい企画だったか」「何が参加の妨げになったか」といった改善点が見えてきます。翌年は案内方法を変える、実施期間やルールを見直すといった形で、次の施策につなげていきましょう。
3.参加と効果を高める鍵の一つは「管理職の関与」
健康施策では、管理職を含む組織の関与も重要な要素になります。健康経営度調査に回答した1,800社を分析した研究では、経営会議で健康施策を議題にすることや、管理職への定期的な教育など、一部の組織要因が健康プログラムへの参加率と関連していました2)。また、11,484人の従業員を対象とした横断研究からは、上司が会社の健康施策を部下に「伝える」だけでなく自らも「実践」している場合に、部下の心理的ストレスが低く、ワーク・エンゲイジメントや主観的健康感が最も良好でした3)。
これらの研究は、上司の関与が参加率や健康状態を直接改善すると証明したものではありません。それでも、全社メールで案内するだけでなく、管理職に施策の目的を説明し、参加を後押ししてもらう環境づくりの重要性を示唆しています。上司自身が参加して「自分も参加するから一緒に歩こう」と声をかける、そんな巻き込みの設計が有力な工夫になるでしょう。
4.「やりっぱなし」にしないための3つの工夫
① 始める前に「何をもって成功とするか」を決める
評価指標は、時間軸を分けて整理すると考えやすくなります(図1)。短期では参加率・継続率・平均歩数を、中期では1〜3か月後の運動習慣を、長期では翌年の参加率や運動習慣の定着状況などを確認します。企画段階で指標を決めておけば、集めるべきデータも自然と定まります。
図1 評価指標の時間軸整理
| 時間軸 |
主な評価指標 |
使うデータの例 |
短期 イベント期間中 |
参加率、継続率、平均歩数、部署・年代別の参加状況 |
申込記録、歩数記録、実施履歴 |
中期 1〜3か月後 |
運動習慣の変化(イベント後も続いているか) |
フォローアップアンケート |
長期 年単位 |
翌年の参加率、再参加率、運動習慣の定着状況 |
参加記録、フォローアップアンケート、翌年の実施記録 |
② 実施履歴を記録に残す
いつ・誰を対象に・何を実施し・何人が参加し、結果はどうだったかを記録します。この実施履歴を組織の資産として残せば、担当者が替わっても改善を積み重ねられます。
③ 振り返りと比較を仕組みにする
実施後は、前年との比較、部署ごとの参加状況、中期的な運動習慣の変化、参加者アンケートなどを振り返ります。その結果を衛生委員会などで共有し、翌年の企画に反映しましょう。「やって終わり」ではなく、「測って次に活かす」流れを定例化することが肝心です。
5.記録・振り返りの基盤を整える
こうした運用を紙やバラバラのExcelで続けるのは、担当者にとって大きな負担になります。健康管理システム「Growbase」であれば、健診結果、面談記録、ストレスチェックなどを一元管理でき、プランに応じてアンケートやデータ集計の機能も利用できます。イベントの参加記録とアンケート結果などをあわせて振り返れば、施策評価に必要な情報を整理しやすくなります。健康経営のPDCAを回すうえで、心強い土台になるはずです。
記録が蓄積されれば、「昨年より参加率が上がった」「イベント後も運動を続ける社員が増えた」といった変化を経営層に示しやすくなります。単なる開催実績ではなく改善の経過を説明できることは、次年度の施策継続や予算獲得の説得材料にもなるでしょう。
秋のウォーキングイベントは、健康経営の取り組みを社内に広げるよいきっかけになります。企画の段階で「記録」と「振り返り」を少しだけ組み込んでおく。それだけで、開催して終わりのイベントが、次につながる一歩に変わります。
参考文献
1) Papachristou Nadal I, Angkurawaranon C, Singh A, et al. Effectiveness of behaviour change techniques in lifestyle interventions for non-communicable diseases: an umbrella review. BMC Public Health. 2024;24(1):3082. doi:10.1186/s12889-024-20612-8.
2) Takahashi H, Nagata M, Nagata T, Mori K. Association of organizational factors with knowledge of effectiveness indicators and participation in corporate health and productivity management programs. J Occup Health. 2021;63(1):e12205. doi:10.1002/1348-9585.12205.
3) Mori T, Nagata T, Odagami K, Mori K. Supervisors' Health-Promoting Behaviors and Employee Health in Corporate Health and Productivity Management: A Cross-sectional Study of Large Japanese Companies. J Occup Environ Med. 2026;68(1):9-15. doi:10.1097/JOM.0000000000003549.
<監修者プロフィール>
佐々木 規夫

産業医科大学医学部卒業。東京警察病院を経て、HOYA株式会社の専属産業医及び健康推進グループ統括マネジャーとして健康管理に従事。現在は上場企業や主要官庁の産業医として勤務する傍ら、精神科医を兼務している。
<資格>
・医師
・医学博士
・日本産業衛生学会産業衛生専門医・指導医
・社会医学系指導医
・日本精神神経学会精神科専門医
・精神保健指定医
・労働衛生コンサルタント