従業員の健康を組織全体で支える「健康経営」は、今や企業成長の基盤の一つです。とくに健康経営優良法人認定制度における「ホワイト500」は、その中でもとりわけ優れた取り組みを行う大規模法人に与えられる称号となっています。本記事では、ホワイト500の概要や認定基準、申請方法に加え、認定企業の具体的な事例までをわかりやすく解説します。
ホワイト500とは
ホワイト500は、健康経営優良法人認定制度において、大規模法人部門の中でも特に優れた健康経営を実践する上位500社に付与される称号です。企業の信頼性や社会的評価の向上を目的とし、以前は大規模法人部門の認定企業全体を「ホワイト500」と呼んでいましたが、2020年からは上位企業のみがホワイト500として区分されています。
ホワイト500として区分されている上位500法人には、国内における健康経営への取り組みはもちろん、その考えを世間に周知させる役割もあります。
なお、中小規模法人部門の上位500社には「ブライト500」が付与されます。
健康経営について
健康経営とは、従業員の健康を企業の資産と捉え、経営的視点から戦略的に健康管理に取り組む考え方です。この理念を社会全体に広げるために創設されたのが「健康経営優良法人認定制度」です。
健康経営優良法人認定制度は日本健康会議が主導しており、健康経営に優れた企業を「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分けて顕彰しています。
ホワイト500はそのうち、大規模法人の中でも特に高い評価を受けた上位500社に与えられる称号です。認定されるとロゴマークの使用が可能となり、金融機関や自治体からの支援を受けやすくなるなど、社会的な信頼性の向上にもつながります。
参照:健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)
ブライト500との違い
ホワイト500とブライト500は、いずれも健康経営優良法人認定制度における上位法人に与えられる称号ですが、対象となる企業規模に違いがあります。
ホワイト500は大規模法人部門の上位500社、ブライト500は中小規模法人部門の上位500社が対象です。
また、ホワイト500では健康経営度調査への回答が必須であるのに対し、ブライト500では保険者を通じた健康宣言事業への参加が前提となるなど、申請フローや評価方法にも違いがあります。
ホワイト500の認定要件について
対象法人の条件
ホワイト500に認定されるには、「大規模法人部門」の対象であることが条件です。該当するかどうかは、業種ごとに定められた従業員数の基準に基づきます。
以下の基準を満たしていない場合は、中小規模法人部門に分類され、ブライト500の対象となります。
| 業種・組織区分 |
対象となる従業員数 |
| 卸売業 |
101人以上 |
| 小売業 |
51人以上 |
| サービス業 |
101人以上 |
| 製造業・その他 |
301人以上 |
| 特定非営利活動法人 |
101人以上 |
| 医療法人・社会福祉法人・健保組合等保険者 |
101人以上 |
| 商工会議所・商工会・財団法人・社団法人 |
101人以上 |
| 公法人、特殊法人(地方公共団体、公団等) |
301人以上 |
認定要件
ホワイト500に認定されるには、健康経営優良法人の大規模法人部門として、5つの大項目に基づく要件を満たす必要があります。
そのうち、「経営理念・方針」「組織体制」「評価・改善」「法令順守・リスクマネジメント」の4項目は必須条件となっており、加えて「制度・施策実行」では17項目中15項目以上(うち必須項目含む)を満たす必要があります。
| 大項目 |
概要 |
| 1.経営理念・方針 |
健康経営の戦略策定、社内外への方針開示、地域・社会への健康貢献等 |
| 2.組織体制 |
健康づくり責任者の役員任命、産業医・保健師等の体制整備、保険者との連携 |
| 3.制度・施策実行 |
健康課題の把握と対策、心身の健康づくり(例:ストレス対策、運動支援、禁煙施策など) |
| 4.評価・改善 |
健康経営施策の効果測定・PDCAの実施 |
| 5.法令順守・リスクマネジメント |
定期健診・ストレスチェックの実施、労基法・安衛法の遵守実績など |
ブライト500の認定要件について
ブライト500の基本的な認定要件として、「経営理念の発信と経営者自身の健診受診」「健康づくり担当者の設置」「健康データの提供」「健康課題に対する推進計画の策定」など、企業として健康経営を実践するための土台が整っていることが求められます。
その上で、ブライト500として認定されるためには、次の3つの分野に分類される評価項目のうち、合計13項目以上に該当する必要があります。
・従業員の健康課題を把握し、必要な対策を検討していること
・健康経営の実践に向けた体制づくりに取り組んでいること
・従業員の心と身体の健康づくりに関して、具体的かつ多面的な対策
ホワイト500に認定されるメリットとは
働きやすさの向上と健康意識の定着
ホワイト500の認定には、メンタルヘルス対策や長時間労働の是正、健康診断の受診促進など、従業員の健康を守るための継続的な取り組みが求められます。
こうした仕組みを制度として整えることで、従業員の健康リテラシーが高まり、職場全体の雰囲気や働きやすさの改善にもつながります。結果的に、従業員が安心して長く働ける職場環境が整っていきます。
離職防止と人的資本の安定化
健康経営への投資は、単なる福利厚生ではなく、企業にとっての戦略的な人的資本投資です。心身の不調による休職や早期退職を防ぎ、従業員の定着率を高めることで、人財の流出リスクを低減できます。
離職が減ることにより、新たな人財確保にかかるコストや教育負担も軽減され、組織としての安定性と生産性の維持にも寄与します。
採用競争力の向上
ホワイト500に認定されることで、「従業員を大切にしている企業」という印象を社会に発信できます。
求職者にとって、職場の環境や企業の姿勢は重要な判断材料の一つです。健康経営に真剣に取り組んでいる姿勢は、安心して働ける会社としてのアピールになり、応募を後押しします。
企業イメージの向上と顧客からの信頼獲得
健康経営を重視している企業は、社会的責任を果たしている組織としての評価を受けやすくなります。生活者や取引先は、信頼できる企業と長く関係を築きたいと考えており、ホワイト500認定はその信頼の証として機能します。
たとえば、商品やサービスに直接的な違いがない場合、ホワイト500認定などの企業姿勢が選ばれる決め手となることもあります。
ESG対応による投資家へのアピール効果
ホワイト500認定企業は、「人財を重視し、持続可能な経営を実践している企業」としてESG投資の観点からも注目されます。
※ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。投資家が企業の株式などに投資するとき、これまでは投資先の価値を測る材料として、主にキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われてきました。それに加え、非財務情報であるESGの要素を考慮する投資が「ESG投資」です。GPIFは、ESG投資を推進しています。
参照:GPIFのESG投資について
従業員の健康を守る取り組みは、S(社会)やG(ガバナンス)の領域にも密接に関わっており、投資家からの信頼を高める要因です。中長期的に見ても、資金調達や企業価値の向上に貢献する可能性があります。
ホワイト500に認定されるための申請方法と手順
ホワイト500(大規模法人部門)に認定されるためには、まず経済産業省が実施する「健康経営度調査」に回答する必要があります。
この調査では、企業の健康経営に関する取り組みや成果が評価され、その回答内容をもとに、日本健康会議認定事務局への申請が行われます。
調査結果を踏まえ、健康経営度が上位20%に入った企業が候補として選出されます。上場企業の場合は、東京証券取引所による財務指標スクリーニングを受けます。
スクリーニングを通過した企業については、経済産業省と東京証券取引所が共同で審査を行い、業種ごとに上位企業(原則33業種から各1社)をホワイト500として選定します。最終的には、日本健康会議が審査・認定を行い、認定企業名が公表されます。
なお、非上場企業は、健康経営度調査の実施の次に認定審査が行われ、日本健康会議においてホワイト500に認定される流れです。
ブライト500に認定されるための申請方法と手順
ブライト500(中小規模法人部門)に認定されるには、まず加入している保険者(協会けんぽ、健保組合など)が実施する健康宣言事業に参加することが前提です。参加が難しい場合は、自治体の類似事業や自社独自の健康宣言でも代替が可能となっています。
その後、自社の取り組みが中小規模法人部門の認定基準に該当しているかを確認し、具体的な実施内容を申請書に記載して、日本健康会議認定事務局へ提出します。
書類審査を経て、日本健康会議によってブライト500として認定されます。
ホワイト500に認定されるためのポイント
健康経営の体制整備と方針の明文化
ホワイト500の認定には、健康経営を推進するための社内体制が整っていることが重要です。経営トップが関与し、健康課題の明確化や方針の策定を行い、具体的な数値目標を掲げていることが求められます。さらに、その内容を社内外に発信しているのかどうかも、評価対象です。
健康施策の実行と従業員参加の促進
健康診断の受診率向上やストレスチェックの実施といった基本的な取り組みに加え、運動習慣の定着や食生活改善、禁煙支援などの積極的な施策もポイントです。これらを従業員が実際に活用しているかどうか、参加率や実施結果も審査で重視されます。
データ活用によるPDCAサイクルの実践
健康経営の成果を見える化し、継続的な改善に取り組んでいることが評価されます。たとえば、従業員の健康指標や施策の実施結果を数値で分析し、改善計画に反映させるといったPDCAサイクルを実践する姿勢が重要です。
ホワイト500認定企業の取り組み事例
事例1:某食品メーカー
テレワークの拡大に伴い、従業員のメンタルヘルスリスクを重視するようになりました。特に、在宅勤務による孤立感や不調の見逃しを防ぐため、健康診断後に全従業員と個別面談を実施。信頼関係の構築と早期支援につなげています。
また、健康情報の一元管理や、社内食堂での栄養支援など、食を通じた健康サポートも強化。こうした一連の取り組みが、従業員のモチベーションや働きがいの向上に寄与しています。
事例2:某電機メーカー
メンタル不調による休務日数の増加が課題だったことから、全従業員に対するストレスチェックを年2回実施するようになりました。あわせて、セルフケア研修やeラーニングを通じて、個々のストレス対処力を育てる取り組みを進めています。
さらに、ウォーキングイベントやスマホアプリを活用した健康プログラムも導入し、身体面のサポートも強化。結果として休務者の新規発生が減少し、社員の生活習慣にも良い影響が見られるようになりました。
事例3:某印刷業企業
性別や年齢を問わず全社員が安心して長く働ける環境づくりを目指し、女性の健康課題にも積極的に取り組んでいます。社内で健康セミナーを開催し、理解促進を図るとともに、チーム単位でのウォーキングイベントをアプリと連動して実施中です。
また、年間を通じてポイントを競う仕組みが、楽しみながらの健康増進に役立っています
参照:健康経営先進企業事例集|健康長寿産業連合会 健康経営ワーキング
まとめ
ホワイト500の認定は、企業の健康経営が社内外から高く評価される指標となります。継続的な健康支援や組織体制の整備は、人的資本の価値向上にもつながります。しかし、実務には多くのリソースが必要です。
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<監修者プロフィール>
株式会社 産業医かつき虎ノ門事務所
勝木 美佐子
https://katsuki-sangyoui.com/

医学博士、日本産業衛生学会指導医、労働衛生コンサルタント。
1993年日本大学医学部卒業後、同大学院医学専攻公衆衛生学修了。 1996年より製造業、清掃業、運送業、通信業、IT業、ホテル業など多岐にわたる企業で産業医として活動中。
2018年産業医事務所を法人化。
<資格>
・労働衛生コンサルタント
・日本内科学会総合内科専門医
・日本消化器病学会専門医
・日本産業衛生学会指導医
・社会医学系専門医協会指導医・専門医
・人間ドック健診指導医・専門医
・日本医師会認定産業医