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特殊健康診断とは?法令で規定されている種類や対象者、項目などを紹介

特殊健康診断は、一定条件下で勤務する従業員に対して実施される、通常のものとは内容が異なる健康診断です。従業員の健診が義務化されている企業は、該当者がいる場合には対応が必要になります。

しかし、具体的な内容や誰が対象になるのかなどの詳細についてご存じの方は少ないかもしれません。そこで今回は、特殊健康診断がどのようなものなのかを、法令で規定されている種類や対象者、項目なども踏まえて解説します。

特殊健康診断とは

特殊健康診断とは、どのような健康診断なのでしょうか。ここでは、特殊健康診断の定義と種類、一般健康診断との違いをご紹介します。

特殊健康診断の定義

特殊健康診断とは、一定の有害な業務に携わる従業員に対して、医師が指定する項目に基づいて行われ、その実施が法律で義務付けられている健康診断です。労働安全衛生法第66条第2、3項に定められています。
参考:e-GOV法令検索/労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)

特殊健康診断の目的は、従業員が安全かつ健康に働けるようにすることであり、特に健康上のリスクを伴う業務に従事する従業員に対しては重要です。業務内容や作業環境と特殊健康診断結果との関連性を検討することで、業務内容や業務量における新たな健康障害を未然に防ぐことが目的とされています。

法令で規定されている特殊健康診断の種類と対象者、項目

特殊健康診断は、おもに以下のような業務に携わる従業員が対象です。

・高気圧業務
・放射線業務
・特定化学物質業務
・石綿業務
・鉛業務
・有機溶剤業務
・四アルキル鉛業務
・じん肺健診
・歯科医師による健診

企業はこれらの業務に携わる従業員に対して、特殊健康診断を受診する機会を設けなければいけません。ここでは、それぞれの健診内容と実施時期をご紹介します。

高気圧業務

高気圧業務の特殊健康診断は、地下トンネルの工事や海底に潜る作業などを行う従業員を対象とした、労働安全衛生法第66条によって定められている健康診断です。この健康診断は、雇入れ時、当該業務への配置替え時、およびその後6か月以内ごとに1回、定期的に実施する必要があります。

放射線業務

放射線業務に関する特殊健康診断は、放射線業務に常時従事し、管理区域に立ち入る従業員が対象です。この健康診断は雇入れ時、配置替え時、そしてその後は6か月ごとに1回実施しなくてはいけません。

健康診断の内容は、以下のとおりです。

・既往歴および業務歴の調査
・自覚症状および他覚症状の有無の検査
・身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
・胸部エックス線検査および喀痰検査
・血圧の測定
・貧血検査
・肝機能検査
・血中脂質検査
・血糖検査
・尿検査
・心電図検査

特定化学物質業務

特定化学物質業務の特殊健康診断は、一定の有害業務に従事する従業員が職業病などを発症しないように早期発見・早期治療を行うことを目的とした健康診断です。特定化学物質を扱う業務については、特定化学物質第39~42条により健康診断が義務付けられています。

対象者は、以下のとおりです。

・特定化学物質(単体で1%以上)を扱う業務に従事する従業員
・過去に該当業務に常時従事していた人で、現在はその業務を行っていない人
・中途入社の社員など、他社で特定化学物質を取り扱っていた人は対象にはなりません

実施時期は雇入れ時、当該業務への配置替え時、およびその後6か月以内ごとに1回、定期に実施する必要があります。また、胸部エックス線直接撮影による検査の場合、1年に1度の実施が必要です。

石綿業務

石綿業務の特殊健康診断は、石綿などの取り扱いに常時従事する作業者が対象です。具体的には、以下の3つのカテゴリーの従業員が対象とされています。

・石綿などを取り扱い、または試験研究のため製造する業務に常時従事する従業員
・過去にその事業者で、石綿等の製造または取り扱い業務に常時従事したことのある在籍従業員
・上記業務の周辺で、石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する、または常時従事したことのある従業員

この特殊健康診断は、雇入れや配置換えのタイミング、その後は6か月ごとに定期的に受けなくてはいけません。診断内容は、業務の経歴の調査、石綿によるせき、たん、息切れ、胸痛等の他覚症状または自覚症状の既往歴の有無の検査、胸部のエックス線直接撮影による検査などが含まれます。

鉛業務

鉛業務に関する特殊健康診断は、鉛またはその化合物を取り扱う業務に従事する従業員が対象です。この健康診断は、従業員の健康を保護し、職業性疾患を早期に発見し、早期治療に結びつけることが目的だといわれています。

具体的な診断項目は、以下のとおりです。

・業務の経歴の説明
・作業条件の簡易な調査
・鉛による自覚症状および他覚症状の既往歴の調査
・鉛による自覚症状または他覚症状と通常認められる症状の有無を検査
・血液中の鉛の量の検査
・尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査

鉛業務に関する特殊健康診断は、従業員が新たに雇用されたとき、業務の配置が変更されたとき、そしてその後は6か月ごとに定期的に実施することが義務付けられています。

有機溶剤業務

有機溶剤業務の特殊健康診断は、特定の有害物質を取り扱う業務に従事する従業員を対象に実施される健康診断です。従業員の健康を保護し、有機溶剤による健康障害を予防するための重要な措置といえます。

特殊健康診断の対象となるのは、第一種有機溶剤や第二種有機溶剤を使用して、有機溶剤業務に常時携わる従業員です。雇入れや配置替え、およびその後6か月以内ごとに1回のタイミングで、定期的に実施しなくてはいけません。

四アルキル鉛業務

四アルキル鉛などの業務に従事する従業員を対象とした特殊健康診断です。雇入れ時や配置替え、およびその後6か月以内ごとに1回定期的に実施しなければいけません、

検査項目は、以下のとおりです。

・業務の経歴の調査
・作業条件の簡易な調査
・四アルキル鉛による自覚症状、および他覚症状の既往歴の有無の検査
・いらいら、不眠、悪夢、食欲不振、顔面蒼白、倦怠感、盗汗、頭痛、振戦、四肢の腱反射亢進、悪心、嘔吐、腹痛、不安、興奮、記憶障害その他の神経症状または精神症状の自覚症状、または他覚症状の有無の検査
・血液中の鉛の量の検査

なお、2023年4月以降は一定の条件に該当すれば、定期の特殊健康診断の実施頻度を「6か月以内ごと」から「1年以内ごと」に変更できるようになりました。「1年以内ごと」に変更するためには、以下の条件を満たす必要があります。

・専属の化学物質管理専門家(労働衛生コンサルタントなど)を選任すること
・全てが第一管理区分であること
・特殊健康診断で新たに異常所見があると認められる従業員がいないこと

じん肺健診

じん肺健康診断は、粉じん作業に従事する従業員の健康管理のために行われる特殊健康診断の1つです。じん肺とは、吸い込んだ粉じんに対し、肺が反応して変化を起こす病気をさします。

じん肺健康診断の検査項目は、おもに粉じん作業の職歴の調査と胸部エックス線写真です。じん肺健康診断には、以下の4つの種類があります。

・就業時健康診断:新たに常時粉じん作業に従事することとなった従業員に対して、その就業の際に行われる
・定期健康診断:常時粉じん作業に従事する従業員に対して、じん肺管理区分に応じて1~3年ごとに1回実施されます.
・定期外健康診断:定期の健康診断以外に特定の場合に行うべき健康診断
・離職時健康診断:離職の日まで1年を超えて使用していた従業員が、離職の際にじん肺健康診断を行うように求めたときに実施されます。

歯科医師による健診

歯科医師による健診は、労働安全衛生法に基づき、特定の有害物質を取り扱う業務に携わる従業員に対して行われる特殊健康診断です。具体的には塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄リンなど、歯やその支持組織に有害な物質のガス、蒸気、粉じんを発散する場所で働く従業員が対象とされています。

歯科医師による健診は、従業員が業務を開始する前、配置換えが行われる際、そしてその後6か月ごとに1回、歯科医師によって実施することが義務です。おもに確認される症状は酸蝕症で、これは強い酸により歯が溶けてしまう症状です。

歯科医師による健診の結果、従業員が酸蝕症等になっていることが認められた場合、事業者は就業場所の変更、作業の転換、作業環境測定、設備の設置などを行わなければいけません。また、結果は従業員に通知され、常時50人以上の従業員を雇用する事業所は、健診結果を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。

その他の健康診断

ここまでにご紹介した特殊健康診断以外にも、いくつかの健康診断が存在します。ここでは、3つの事例をご紹介します。

特定業務従事者の健康診断

特定業務従事者の健康診断とは、特定の職業や業務を行う方々に対して行われる健康診断です。これには、特定の有害な物質にさらされる可能性のある職業(例:化学工場の作業員、放射線技師など)に従事する従業員が含まれます。健康状態を評価し、必要な予防措置を講じるために行われる健康診断です。

海外派遣従業員の健康診断

海外派遣従業員の健康診断は、日本から他国へ派遣される従業員に対して行われる健康診断です。海外での労働に適した健康状態かどうかを評価する内容が含まれます。感染症の予防や健康管理のために実施されることが一般的です。

給食従業員の検便

給食従業員の検便は、食品業界で働く従業員に対して行われる検査です。おもに食中毒の予防を目的として、病原体(例:細菌や寄生虫)の検出を行います。食品の衛生管理に重要な役割を果たす重要な検査といえるでしょう。

特殊健康診断の結果を保管しなくてはいけない期間

特殊健康診断の結果を保管する期間は、担当業務によって「5年~40年」と定められています。具体的な期間は、以下のとおりです。

・高気圧業務健康診断:5年
・電離放射線健康診断:30年
・除染等電離放射線健康診断:30年
・特定化学物質健康診断:5年(特別管理物質は30年)
・石綿健康診断:40年
・鉛健康診断:5年
・有機溶剤健康診断:5年
・四アルキル鉛健康診断:5年
・じん肺健康診断:7年

企業は自社の業務内容に応じて、必要な特殊健康診断と保存期間を確認する必要があります。また、健康診断結果は個人情報が含まれるため、取り扱いには十分注意しなければいけません。よって、具体的な保管方法や取り扱いについては、専門家に相談するのがおすすめです。

特殊健康診断の結果に応じた従業員への対応

特殊健康診断の結果に応じて、企業は従業員に適切な対応を行わなくてはいけません。ここでは、特殊健康診断の結果に応じた従業員への対応について解説します。

就業場所の変更

特殊健康診断の受診後、従業員の健康状態によっては、別の場所での業務を検討する必要があります。これにより、特定のリスクを軽減することが可能です。

作業の転換

特殊健康診断の結果に応じて、従業員の職務を変更することもあります。業務内容が従業員の健康状態を損ねると判断した場合には、作業の転換を実施しなくてはいけません。これにより特定の作業を避けられ、従業員の健康を守ることが可能です。

労働時間の短縮

健康上の問題がある場合は、労働時間を短縮することも視野に入れなくてはいけません。残業時間の短縮や深夜残業の禁止、出張の禁止など、健康状態によって、その内容は異なります。これらの措置によって、従業員の負担を軽減する効果が期待できます。

作業環境測定の実施

特殊健康診断の結果によっては、作業環境の健康と安全性を確保するために、定期的な測定を実施する必要もあるでしょう。問題を早期に発見することにより、適切な対応が取れるようになります。

施設・設備の設置や改善

課題解決のために、施設や設備の設置・改善が必要になる場合もあります。必要に応じて、施設や設備を改善することで、従業員の健康と安全を向上させる効果が期待できるでしょう。

医師・保健師による保健指導

特殊健康診断の結果に応じて、従業員に対して、医師や保健師からの適切な健康指導を提供することも必要です。これにより、予防措置を講じやすくなります。

特殊健康診断の未実施により発生しうる罰則

特殊健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条によって定められています。そのため、特殊健康診断が必要な業種であるにもかかわらず、実施を怠った場合は労働安全衛生法違反となり、労働基準監督署から指導が入る可能性が高いです。

指導を受けても改善されない場合、50万円以下の罰金を科されることがあるため注意しましょう。

一般健康診断との違い

一般健康診断は、従業員の一般的な健康状態を調べることが目的です。具体的な診断項目としては血圧検査や尿検査、肝機能検査、心電図検査などが含まれます。

一方、特殊健康診断は、特定の有害な業務に携わる従業員の健康障害を予防・早期発見することが目的です。例えば、高気圧業務や放射線業務などの特定の業務に従事する従業員を対象としている点が、一般健康診断との違いだといえるでしょう。

よって特殊健康診断は、職場診断の意味合いが大きいため、人事や総務担当者は対象者を適切に分類し、必要な健康診断の受診手続きを実施する必要があります。

まとめ

特殊健康診断は労働安全衛生法第66条やじん肺法によって規定されている、一定の有害な業務に携わる従業員に対して実施する必要がある健康診断です。
具体的には、以下のような業務に携わる従業員が対象です。

・粉じんや石綿業務
・特定物質ガス・蒸気・粉じん業務
・高気圧業務
・放射線業務
・特定化学物質業務
・石綿業務
・鉛業務
・有機溶剤業務
・四アルキル鉛業務

なお、特殊健康診断の結果に応じて、適切な従業員対応や社内対応が求められます。また実施対象の従業員がいる場合、特殊健康診断の実施を怠った企業は、法令による罰則が科される可能性があるため注意しましょう。

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<監修者プロフィール>
医師、公認心理師、産業医:大西良佳
大西良佳 写真 

医学博士、麻酔科医、上級睡眠健康指導士、セルフケアアドバイザー
北海道大学卒業後、救急・在宅医療・麻酔・緩和ケア・米国留学・公衆衛生大学院など幅広い経験からメディア監修、執筆、講演などの情報発信を行う。
現在はウェルビーイングな社会の実現に向けて合同会社ウェルビーイング経営を起業し、睡眠・運動・心理・食に関するセルフケアや女性のキャリアに関する講演や医療監修も行っている。

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