特定保健指導対象者を選定する基準とは?項目を詳しく解説!
特定保健指導は、特定健康診査(特定健診)の結果、生活習慣の改善が必要であると判断された方に対して実施される指導のことです。
特定健診と特定保健指導の実施は、保険者の義務である一方、事業者については努力義務とされています。しかし、従業員の健康管理と生活習慣の改善のためには、事業者自らが、特定保健指導の内容と対象者を選定する基準について正しく理解することが大切です。
本記事では、特定保健指導の対象者を選定する基準について解説します。特定保健指導を適切に実施するために、ぜひ参考にしてください。
特定保健指導とは?
特定保健指導とは、特定健康診査の結果、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣を改善すべきと判断された方を対象に行われる指導のことです。保健師や管理栄養士などの専門スタッフが、生活習慣を改善できるようにサポートを行います。
2008年4月から、国民健康保険を運営する市町村や企業の健康保険組合などの医療保険者(国民健康保険・被用者保険)には、特定健康診査と特定保健指導の実施が義務づけられました。
事業者は健康診断の結果によって保健指導を行う努力義務を負いますが、従業員の生活習慣病発症リスクを抑え、生活習慣の改善を促すためには、特定保健指導の内容と対象者の選定基準について正しく理解することが重要です。
特定保健指導の対象年齢
特定保健指導の対象年齢は、40歳以上75歳未満に限定されています。
対象年齢に該当する方は、40歳以上75歳未満の被保険者・被扶養者を対象とした特定保険診査を受けることが必要です。特定保健診査では、生活習慣病の予防のために、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診を行います。
特定保健指導の対象者は、特定健康診査の受診者の中から、生活習慣病リスクをもとに選定されます。
特定保健指導には2種類ある
特定保健指導は、メタボリックシンドロームのリスク数に応じて、「動機付け支援」と「積極的支援」の2つのタイプに分かれます。
以下では、それぞれのサポート内容について解説します。
動機付け支援
動機付け支援とは、その名のとおり、生活習慣を改善に取り組むきっかけを提供するためのサポートのことです。
保健師などの専門家が、対象者と生活習慣を振り返ったうえで、ライフスタイルにあった目標・行動計画を設定し、生活習慣を改善できるようサポートします。栄養や運動、そのほか生活習慣に関する保健指導を行い、対象者が指導終了後、すぐに生活習慣改善に向けた取り組みを実践できるようにするのが目的です。
具体的には、1人20分以上の個別支援、あるいは1グループ80分以上のグループを実施したのち、6ヶ月後に電話や手紙などで身体状況や生活習慣に変化が見られたかについて確認します。
積極的支援
積極的支援は、生活習慣を改善すべき対象者に対し、医師や保健師などの専門家が積極的にサポートを行うことです。
動機付け支援と同様に、対象者と生活習慣を振り返ったうえで、ライフスタイルにあった目標を設定し、改善に向けて行動を続けられるようサポートします。厚生労働省は、積極的支援の望ましいあり方を以下のように定めています。
- 支援期間:3~6ヶ月
- 指導:20~30分程度の個別指導、あるいは80~90分程度のグループ支援を実施する
- 評価:対面による中間評価および6ヶ月後の評価で身体状況や生活習慣の変化について確認する
ここから分かるように、積極的支援は動機付け支援と比べて、中長期的かつ継続的にサポートを行うのが特徴です。また、支援内容に応じてポイントが割り振られており、180ポイント分の支援をすることが求められます。
特定保健指導対象者の選定基準
特定保健指導対象者を選定する際は、特定健診の結果を使用し、メタボリックシンドロームのリスク数を基準にします。該当するリスクによって、実施する保健指導タイプが異なるからです。
メタボリックシンドロームのリスク数とは、以下の項目のことです。
- 内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)のリスク:腹囲・BMI
- 追加リスク:血糖・脂質・血圧の数値
- 追加リスク:喫煙歴
以下では、それぞれのリスクについて解説します。
①内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)のリスク|腹囲・BMI
まず、内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)のリスクを判定します。判定基準となるのは、腹囲とBMIです。
以下のAまたはBに該当する場合は、次の追加リスクの判定に移ります。どちらにも該当しない場合は、特定保健指導の対象外です。
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※BMIは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出されます。
②追加リスク|血糖・脂質・血圧の数値など
内臓脂肪型肥満AまたはBに該当する場合は、追加リスクを判定します。健診結果と質問票から、以下の項目のうち該当するものをカウントします。
(1)血糖・・・空腹時血糖値※100mg/dl以上またはHbA1c 5.6%(NGSP値)以上 |
当てはまるものが1つもない場合は、特定保健指導の対象外です。
③追加リスク|喫煙歴
上記の追加リスクのうち、1つでも該当するものがある場合は、喫煙歴を確認します。
理由として喫煙は、メタボリックシンドロームの発症リスクを上昇させることが明らかとなっているためです。
選定基準に関する注意点
特定保健指導の選定基準には注意点があるのであわせて解説します。
LDLコレステロール値は基準に含まれないが異常値に注意
特定健診では、LDLコレステロールの値についても測定します。LDLコレステロールとは、いわゆる悪玉コレステロールと呼ばれるものです。血中に多く存在すると動脈壁に蓄積して動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳梗塞につながるとされています。
LDLコレステロールの値は、特定保健指導対象者を選定する際の基準ではありません。しかし、LDLコレステロールの値が異常(140mg/dl以上)であると脂質異常症とされ、心筋梗塞や脳卒中などを発症するリスクが高まります。LDLコレステロールの値が異常であった場合は、食事療法と運動療法を行い、生活習慣を改善することが必要です。
なお、追加リスクの脂質に関して測定されるHDLコレステロールは、善玉コレステロールとも呼ばれ、動脈壁に蓄積したLDLコレステロールを取り除くはたらきを持ちます。HDLコレステロール値が低いと、その分LDLコレステロールを排除できなくなり、脂質異常になってしまうのです。
前期高齢者は動機付け支援の対象になる
65歳以上75歳未満の前期高齢者は積極的支援の対象になった場合でも、動機付け支援の対象になります。誤って積極的支援を行わないように注意しましょう。
第三期から動機付け支援相当の対象者が追加された
2年連続して積極的支援の対象になった場合でも、1年目に比べて2年目の状態が改善(※)していれば、2年目の特定保健指導は、動機付け支援相当にすることが認められています。
(※)BMI30未満の場合:腹囲1㎝以上かつ体重1キロ以上減少、BMI30以上の場合:腹囲2㎝以上かつ体重2キロ以上減少
選定基準に基づく特定保健指導の内容
上記の基準から、特定保健指導の対象者が選定されます。
内臓脂肪型肥満Aでリスクが1つ、内臓脂肪型肥満Bでリスクが1〜2つの方は、動機付け支援の対象です。また、内臓脂肪型肥満Aでリスクが2つ以上、内臓脂肪型肥満Bでリスクが3つ以上の方については、積極的支援が実施されます。
内臓脂肪型肥満A・Bいずれにも当てはまらない、あるいは追加リスクが1つもない場合は、特定保健指導の対象外です。健康状態に関する情報提供のみが行われます。
最新情報については、厚生労働省のページを参考にしてみてください。
特定保健指導対象者の選定基準に関する注意点
この項目では、特定保健指導の対象者を選定する際の注意点を解説します。
- 基準に該当する者全員に保健指導を実施する必要はない
- すでに治療中・服薬中の方は対象外
基準に該当する者全員に保健指導を実施する必要はない
特定保健指導では、上記の基準に基づいて対象者を選定しますが、必ずしも基準に該当する方全員に動機付け支援や積極的支援を実施する必要はありません。生活習慣の改善により予防効果が大きく期待できる対象者を明らかにし、優先順位をつけて保健指導を実施すること、とされています。
特定保健指導を実施する保険者には、限られた保健財源の中で、生活習慣の改善効果が高い対象者に絞って集中的にリソースを割く、という判断が求められているのです。たとえば、毎年保健指導を実施しているものの改善が見られない方や、保健指導を受けることに消極的な対象者については、優先度を低くできます。
しかし、特定保健指導の実施目標達成の観点からは、優先度の低い方に対しても保健指導を実施することが望ましいでしょう。
すでに治療中・服薬中の方は対象外
糖尿病、高血圧症または脂質異常症の治療にかかる薬をすでに服用している方については、基準に該当していても、特定保健指導の対象外となります。
理由は、すでに医師の指示のもとで改善や予防に向けた取り組みを進めているため、別途保健指導を行う必要性はないと判断されるためです。
まとめ:特定保健指導の選定基準を理解しよう
特定保健指導の対象者を選ぶ基準は、主にメタボリックシンドロームのリスク数です。該当するリスク項目の数に応じて、保健指導のタイプが動機付け支援と積極的支援で異なるのが特徴です。特定保健指導を適切に実施するためには、選定基準を正しく理解しましょう。
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