特定健診・特定保健指導に関する法律は?重要ポイントや実施の義務について解説
特定健診と特定保健指導は、メタボリックシンドロームと生活習慣に着目した健診・保健指導であり、健康保険組合等の保険者に実施義務があります。事業者については努力義務とされていますが、特定健診と特定保健指導のスムーズな運営に貢献するためには、事業者自らが関連する法律とそのポイントについて理解することが大切です。
この記事では、特定健診と特定保健指導に関する法律やそのポイント、実施の流れ、特定保健指導について理解しておきたい事項について解説します。特定保健指導を適切に実施するために、ぜひ参考にしてください。
特定健診・特定保健指導とは
特定健診とは、40~74歳の人を対象に実施する、メタボリックシンドロームに着目した健診のことです。生活習慣病の早期発見と、生活習慣の改善による予防を目的としています。
そして、特定健診の結果、生活習慣を改善すべきと判断された方には、医師や保健師などの専門家が指導を行う特定保健指導が実施されます。
特定健診と特定保健指導は、国民健康保険を運営する市町村や健康保険組合などの医療保険者(国民健康保険・被用者保険)が実施する義務を負います。事業者にあるのは労働安全衛生法に基づく健康診断を実施する義務、健康診断結果による保健指導を行う努力義務ですが、従業員の生活習慣病予防・早期発見のためにも、特定健診と特定保健指導について理解を深めましょう。
特定保健指導や健診に関する法律
健診や保健指導を正しく実施するためには、関連する法律について理解することが大切です。
以下では、事業者が実施する事業者健診や保健指導、そして保険者が実施する特定健診と特定保健指導に関する法律をご紹介します。
事業者健診や保健指導に関する法律
定期健康診断や雇い入れ時に実施する健康診断など、事業者が行う健康診断については、労働安全衛生法で実施が義務づけられています。
(健康診断)
第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。 |
また、健康診断の結果、健康の保持に努める必要があると判断された労働者に対して行う保健指導については、労働安全衛生法で事業者の努力義務とされています。
(保健指導等)
第六十六条の七 事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。 |
出典:e-Gov法令検索 昭和四十七年法律第五十七号 労働安全衛生法
特定健診と特定保健指導に関する法律
特定健診と特定保健指導については、高齢者医療確保法で、医療保険者(国民健康保険・被用者保険)に実施義務が課されています。
(特定健康診査)
第二十条 保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、四十歳以上の加入者に対し、特定健康診査を行うものとする。ただし、加入者が特定健康診査に相当する健康診査を受け、その結果を証明する書面の提出を受けたとき、又は第二十六条第二項の規定により特定健康診査に関する記録の送付を受けたときは、この限りでない。 |
(特定保健指導)
第二十四条 保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、特定保健指導を行うものとする。 |
出典:e-Gov法令検索 昭和五十七年法律第八十号 高齢者の医療の確保に関する法律
罰則に関する法律
特定健診の受診率や特定保健指導の実施率が基準に満たない健保組合には、ペナルティとして国に納める後期高齢者支援金が加算されます。後期高齢者支援金の加算は、保険料率の引き上げにつながりかねません。
また、特定健診・特定保健指導の実施に際して知り得た個人情報を正当な理由なく保険者が漏えいさせた場合も、罰則の対象となります。 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるため、注意が必要です。この罰則規定は、特定健診・特定保健指導の実施の委託を受けた組織についても適用されます。
(秘密保持義務)
第三十条 第二十八条の規定により保険者から特定健康診査等の実施の委託を受けた者(その者が法人である場合にあつては、その役員)若しくはその職員又はこれらの者であつた者は、その実施に関して知り得た個人の秘密を正当な理由がなく漏らしてはならない。 |
第百六十七条 第三十条、第百二十五条の二第二項又は第百二十五条の四第三項の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 |
出典:e-Gov法令検索 昭和五十七年法律第八十号 高齢者の医療の確保に関する法律
特定健診と特定保健指導に関する法律のポイント
特定健診と特定保健指導に関する法律のポイントは、以下のとおりです。
- 実施義務は事業者ではなく保険者にある
- 事業者健診の結果で特定健診を実施したことになる
実施義務は事業者ではなく保険者にある
特定健診と特定保健指導については、医療保険者(国民健康保険・被用者保険)が実施義務を負います。事業者は、事業者健診の実施義務を負うものの、特定健診と特定保健指導の実施については努力義務とされているのがポイントです。
しかし、特定健診や特定保健診断が円滑に実施できるよう、事業者は保険者に協力することが求められます。たとえば、保険者から健康診断の結果提供を要請されたら必ず対応する、就業時間中に保健指導の時間を確保する、就業時間中の特定保健指導に要した時間についての賃金取扱いについて配慮する、などの協力を行うことが必要です。
事業者健診の結果で特定健診を実施したことになる
特定健診で必要な健診項目は以下のとおりです。
<必須健診項目>
<詳細な健診項目>
|
特定健診の基本的な健診項目は、事業者健診の項目とほとんど一致しているのが特徴です。そのため、事業者から特定健診で必要な項目について検査した事業者健診の結果を用いることにより、保険者は特定健診を実施したことになります。
事業者は、保険者から事業者健診に関する記録の写しを提供するよう求められた場合、写しを提供することが必要です。また、特定健診で必要な項目が欠損している場合は、保険者が欠損分を追加で実施します。
特定健診と特定保健指導を法律に則って実施する手順
特定健診と特定保健指導を適切に実施するためには、流れについて理解する必要があります。法律に則った実施の流れは以下のとおりです。
- 特定健診を実施する
- 特定保健指導対象者を選定する
- 特定健診の結果通知表を出力・送付する
- 受診者に情報提供を行う
- 特定保健指導を実施する
ここでは、特定健診と特定保健指導を実施するうえで押さえておくべきポイントについて解説します。
特定保健指導対象者の選定基準
特定健診を実施した後、生活習慣を改善すべきと判断される対象者については、特定保健指導が実施されます。特定保健指導対象者は、メタボリックシンドロームのリスク数を基準に選定されます。
1.内臓脂肪型肥満→腹囲とBMIで内臓脂肪蓄積のリスクを判定する。
2.追加リスク→健診結果・質問票より追加リスクをカウントする (1)血糖・・・空腹時血糖値※100mg/dl以上またはHbA1c 5.6%(NGSP値)以上 ※H30年4月1日以降の健診では、やむを得ない場合、随時血糖を用いる。 |
まずは1の内臓脂肪型肥満についてリスクを判定します。A・Bどちらにも当てはまらない場合は、特定保健指導の対象外です。
AかBに当てはまる場合は、2の追加リスクのうち、血糖・脂質・血圧について該当するものをカウントします。ここで追加リスクが0の場合は、特定保健指導の対象外です。1つでも該当するものがあれば、特定保健指導の対象となります。
喫煙歴のリスクについてもカウントしたうえで、リスク数に応じて特定保健指導の内容が決まるのです。
特定保健指導の2つのタイプ
特定保健指導は、メタボリックシンドロームのリスク数に応じて、「動機付け支援」と「積極的支援」の2つのタイプに分かれます。
動機付け支援は、内臓脂肪型肥満Aでリスクが1つ、内臓脂肪型肥満Bでリスクが1〜2つの方を対象に実施される保健指導です。医師や保健師などの専門家が、対象者に生活習慣を改善するきっかけを提供するものであり、支援は原則1回の面接支援のみとされています。具体的には、初回面談として個別面談やグループ学習を実施し、6ヶ月後に改善状況に関する評価を行います。
積極的支援は、内臓脂肪型肥満Aでリスクが2つ以上、内臓脂肪型肥満Bでリスクが3つ以上の方を対象に実施される保健指導です。医師や保健師などの専門家が、生活習慣の改善に向けて長期的かつ継続的にサポートを行います。
ただし、前期高齢者(65歳以上75歳未満)は積極的支援の対象になった場合でも、動機付け支援を実施します。また、2年連続して積極的支援に該当しても、1年目に比べて2年目の状態が改善(※)していれば、2年目の特定保健指導は、動機付け支援相当とすることが可能です。
(※)BMI30未満の場合:腹囲1㎝以上かつ体重1キロ以上減少、BMI30以上の場合:腹囲2㎝以上かつ体重2キロ以上減少
治療中の方は特定保健指導の対象外
特定保健指導の対象となる基準を満たしている方のうち、糖尿病、高血圧症又は脂質異常症の治療にかかる薬をすでに服用している方については、特定保健指導の対象外となります。すでに医師の指示のもとで治療を進めているため、重ねて保健指導を行う必要性はないと判断されるためです。
基準に該当する者全員に保健指導を実施する必要はない
特定保健指導では、必ずしも基準に該当する者全員に保健指導を行う必要はありません。保健財源は限られているため、生活習慣の改善効果が高いとされる対象者に対して優先的に保健指導を実施することとされているのです。
そのため、生活習慣の改善により予防効果が大きく期待できる対象者を明確にし、優先度をつけることが求められます。たとえば、毎年保健指導を実施しているものの改善が見られない方や、保健指導を受けることに消極的な方については、優先度を低くすることが可能です。
特定保健指導の法律に関するよくある質問
最後に、特定保健指導の法律に関するよくある質問と、その回答をご紹介します。
- 従業員が特定保健指導を受けるのは義務?
- 特定保健指導では家庭訪問がある?
従業員が特定保健指導を受けるのは義務?
従業員が特定保健指導を受けるのは、義務ではありません。従業員個人の意思で利用するものです。
しかし、特定保健指導を受ける機会の拡充や実施率の向上のためには、指導を受けることが望ましいとされています。そのため、事業者が従業員に対して、特定保健指導の目的や重要性について説明することが大切です。
特定保健指導では家庭訪問がある?
特定保健指導において、家庭訪問は義務付けられていません。面談は、対面もしくは通信機器を用いて実施されます。生活習慣の改善状況の確認についても、電話や手紙、FAXなどで行われます。
ただし、特定保健指導対象者の健診結果については、家庭訪問か保健センターにて原則手渡しで返却する、としているケースもあります。結果を直接返却することで、結果の説明や改善ポイントについて詳しく説明できるためです。
まとめ:特定保健指導を適切に実施するため、関連する法律を理解しよう
特定健診と特定保健指導は、高齢者医療確保法で、医療保険者に実施義務が課されているものです。事業者が実施義務を負うのは事業者健診であり、特定健診と特定保健指導の実施については実施義務を負いません。しかし、特定健診と特定保健指導を適切に実施し、従業員の生活習慣病を早期に発見したり予防したりするためには、特定健診と特定保健指導に関する法律やポイントについて理解することが重要です。
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