健康診断に助成金は使える?2種類の助成金と注意点を詳しく解説
健康診断は、従業員の健康状態を知るための手段として有効です。法定外の健康診断は福利厚生にもなります。とはいえ、健康診断の実施にも費用がかかるため、助成金が使えるかどうか知りたい企業の経営者・健康診断担当者は多いでしょう。
本記事では、健康診断に助成金は使えるかどうか、使える助成金の種類、それぞれの要件・範囲や対象者についてわかりやすくご紹介します。注意点も併せて、ぜひ一度チェックしてみてください。
健康診断に助成金は使える?
健康診断に助成金を使うことはできます。厚生労働省が実施する助成金制度は2種類で、「キャリアアップ助成金」と「職場定着支援助成金」です。ただし、これらの助成金はいずれも、労働安全衛生法で定められた法定健康診断に含まれない健康診断に対して使えるもので、法定内の健康診断に助成金は使えません。
助成金が使えるのは、法定外の従業員や内容に対して健康診断を行い、職場定着やキャリアアップなど雇用改善に活かす場合のみです。法定内の健康診断は事業者の義務なので、助成金の対象とはなりません。法定内・法定外の健康診断としては、主に以下の種類が挙げられます。
【法定内健康診断】
<一般健康診断>
- 定期健康診断
- 雇入れ時健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 給食従業員の検便
- 深夜業従事者の自発的健康診断
- 労災保険の二次健康診断等給付
<特殊健康診断>
- 有機溶剤健康診断
- 鉛健康診断
- 四アルキル鉛健康診断
- 特定化学物質健康診断
- 健康管理手帳所持者に対する健康診断
- 石綿健康診断
- 高気圧業務健康診断
- 電離放射線等健康診断
- 酸等取扱い者の歯科健康診断
- じん肺健康診断
※その他に、指導勧奨による特殊健康診断等があります。
【法定外健康診断(労働安全衛生法で定められていないもの)】
- 人間ドック
- 生活習慣病予防健診 など
令和3年度からは、「キャリアアップ助成金(健康診断制度コース)」が「キャリアアップ助成金(諸手当制度等共通化コース)」に統合され、それに伴って対象者の要件が変わりました。詳しくは後述します。
健康診断実施の費用に関しては、ぜひ以下の記事もご覧ください。
[健康診断の値段まとめ|一般健康診断の内容とオプション検査項目を解説]
[健康診断を安く実施するには?料金相場とおすすめ検診施設も解説]
健康診断の実施は義務?
正社員に対する健康診断の実施は、事業者の義務であることが労働安全衛生法で定められています。労働安全衛生法 第66条また、法定内健康診断の種類については、労働安全衛生規則43条〜48条で詳しく定められています。ここでは例として、最もよく実施する機会のある「定期健康診断」と「雇入れ時健康診断」について、関連する労働安全衛生規則をご紹介します。
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。
労働安全衛生規則 第43条(雇入れ時健康診断)
事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量および赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GT(γ-GTP))
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c、やむを得ない場合は随時血糖(食後3.5時間以上経過))
- 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
労働安全衛生規則 第44条(定期健康診断)
事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
- 胸部エックス線検査および喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量および赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GT(γ-GTP))
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c、やむを得ない場合は随時血糖(食後3.5時間以上経過))
- 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
定期健康診断の場合、医師の判断によって省略できる項目もあります。また、雇入れ時健康診断の場合、入社前3ヶ月以内に健康診断を受診していれば、その結果を証明する書類を提出することで雇入れ時健康診断の実施に替えることができます。
また、「常時使用する労働者」にはすべての正社員が含まれますが、パート・アルバイトの従業員であっても、以下の要件を満たす場合は「常時使用する労働者」に含まれますので、健康診断の実施が義務化されています。
- 無期契約、または1年以上の有期契約である
- 週の所定労働時間数が、正社員の4分の3以上である
これらの要件を満たす従業員に対しては、正社員でないからと健康診断を省略すると法律違反となりますので注意しましょう。また、週の所定労働時間数が正社員の4分の3未満なものの、所定労働時間数が正社員の2分の1以上であるパート・アルバイトの従業員については、健康診断の実施は義務ではないものの努力義務とされており、実施が望ましいとされています。
法定内健康診断の費用は事業者負担です。厚生労働省の通達でも、「労働安全衛生法等で事業者に義務付けられている健康診断の費用は、法により、事業者に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきもの」とされています。
健康診断を行う上での対象や要件については、以下の記事でも詳しく解説しています。
[健康診断を会社で実施する際に押さえておくべきポイントを解説]
[健康診断は従業員の自費?健康診断の種類ごとに支払う対象者を紹介]
健康診断に使える助成金は2種類
健康診断に使える助成金2種類について、詳しく紹介します。
キャリアアップ助成金(諸手当制度等共通化コース)
キャリアップ助成金とは、非正規雇用労働者に対し、企業内でのキャリアアップを促進する ため、正社員化などの取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。正社員化コース、選択的適用拡大導入時処遇改善コースなど7つのコースがあり、健康診断に関する助成金は「諸手当制度等共通化コース」が該当します。
【概要・助成額】
- 支給額(1事業所当たり、中小企業の場合)…38万円 ※1事業所あたり1回のみ
- 各種加算措置
①共通化した対象労働者(2人目以降)について、助成額を加算
…対象労働者1人あたり15,000円 ※上限20人まで
②同時に共通化した諸手当(2つ目以降)について、助成額を加算
…諸手当の数1つあたり16万円 ※上限10手当まで
【対象者】
- 定期健康診断等の受診日の前日から起算して、3か月以上前の日から受診後6か月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者
- 初回の諸手当を支給した日以降の6か月間、当該対象適用事業所において、雇用保険被保険者である者
- 事業主または取締役と3親等以内の親族でない者
- 支給申請時に在職している者
【主な要件】
- 対象となる労働者の、延べ4人以上に実施
- 法定外の健康診断制度を、新たに就業規則等に定める
- 健康診断の場合は、費用を全額事業主が負担する
- 人間ドックの場合は、費用の半額以上を事業主が負担する
【対象となる健康診断】
- 法定内健康診断の対象とならない非正規雇用者に対して実施する健康診断
- 法定外健康診断(人間ドックなど)
令和3年度4月1日より、健康診断制度コースは諸手当制度等共通化コースに統合されました。それにより要件が変わったため、以前の「キャリアアップ助成金(健康診断コース)」での要件で検討していた場合は注意が必要です。
職場定着支援助成金
職場定着支援助成金とは、評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度などを導入して雇用管理の改善を行い、人材の確保・定着をはかる事業主に対して助成金を支給する制度です。健康診断に関する制度は「健康づくり制度」が該当します。
【概要・助成額】
- 制度導⼊助成(健康診断制度を就業規則等に規定し、実施した場合)…10万円
- 制度の適切な運用を経て、離職率低下の目標を達成したとき(目標達成助成)…57万円
※目標達成助成について、生産性要件を満たした場合はさらに15万円がプラスされます。
【対象者】
- 正社員
- 雇⽤保険の被保険者
- 社会保険の適用事業所に雇用されている場合は、社会保険の被保険者
【主な要件】
- 実施する健康診断の費用のうち、半額以上を事業者が負担する
- 健康診断制度を就業規則に明示する
【対象となる健康診断】
- 人間ドック…労働安全衛生法に定める定期健康診断を含み、かつ、次の項目のいずれか1つ以上の項目を含む健康診断(胃がん検診・子宮がん検診・肺がん検診・乳がん検診・大腸がん検診・歯周疾患検診・骨粗鬆症検診)
- 生活習慣病予防検診…人間ドックに掲げる項目のいずれか1つ以上の項目について、医師または⻭科医師により実施される健康診断(人間ドックとして実施するもの以外
- 腰痛健康診断…厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」に掲げる健康診断(既往歴および業務歴の調査、自覚症状の有無の検査、脊柱の検査、神経学的検査、脊柱機能検査等)
職場定着支援助成金は、キャリアアップ助成金とは異なり、対象となるのは正社員のみであることに注意しましょう。また、対象となる健康診断は限られており、法定内の健康診断には使えません。
民間の助成金はある?
定期健康診断や人間ドックなどを受診する場合、各種財団法人・社団法人など、民間で助成制度を設けているところもあります。以下の機関は一例です。
機関 | 助成金制度 |
公益財団法人 船橋市中小企業勤労者福祉サービスセンター |
・定期健康診断 ・生活習慣病予防健診 ・人間ドック ・インフルエンザ予防ワクチン接種 ・肺炎球菌ワクチン ・ストレスチェック |
一般財団法人 あんしん財団 |
定期健康診断補助金 |
一般財団法人 東京都トラック協会 |
健康診断助成事業(定期健康診断) |
健康診断に助成金を使う場合の注意点
健康診断に助成金を使う場合、以下のポイントに注意が必要です。
- いずれも1回のみしか使えない
- 費用の半額以上を事業者が負担している
健康診断に助成金は使える。ただし、要件に注意しよう
健康診断に助成金を使うことは可能ですが、法定内の健康診断には使えません。法定外の従業員に健康診断を行い、キャリアアップを図ったり、法定外の内容まで健康診断を行って福利厚生の一環としたりする場合、健康診断にも助成金が使えます。
いずれの助成金も、対象者や要件が細かく設定されているため、よく注意して申請しましょう。助成金の対象となるかどうか、行った健康診断の結果などはGrowbase(旧:ヘルスサポートシステム)などのクラウド型健康管理システム上で一元管理するのがおすすめです。
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